ハワードvsノーラ part2
ハワードとノーラは小さな光とともに、居室の一番奥、寝室へと入っていった。
寝室のドアが閉められ、しばらくすると、再び開いたドアからは小さな光はどこかへと消え、ハワードとノーラだけが現れた。
二人は執務室に戻り、ハワードはデスクに、ノーラはソファーに沈黙のまま座り込んだ。
最初に口を開いたのはノーラだった。
「……ねえ、お茶をもらえる?」
ハワードが予備のティーカップに、まだ湯気の立ち上がるダージリンを注ぐ。
ノーラはカップを持ち、猫舌を感じさせぬほど紅茶を深く、ゆっくりと味わう。
「美味しい……」
カップを静かに置くと話し出す。
「向こうに随分と長い時間いたと思ったけど、時の流れる速さも違うのね」
ハワードがゆっくりと口を開いた。
「おまえはどう思う?」
「アーサーのこと?」
「そうだ」
「確かにあの子は素質で言えばあの子の母親や、あんたを上回る可能性もあるわね。
だって、初めての試練の際、何にも教えてないのにこのあたしを丸焦げにしかけたのよ!見てよ、このシッポ!
焦げてシミみたいになっちゃったわよ!」
「そうか、やはりな」
「まだまだ力の使い方がわかってないけどね。今のままじゃあ、どこへ走って行くか解らない暴れ馬みたいなものよ。
まあ、ちゃんと仕込めばこの家を継ぐにふさわしい存在になるでしょうね」
ハワードは満足そうにうなずいた。
途絶えてしまうかと心配していた偉大な魔法使いの血は、予言通り受け継がれていたのだ。
ノーラが、憐れむ様な眼差しをハワードへと向ける。
「あんた、本当にこれでいいの?」
「ああ」
「キッツイわねえ……」
「他に道はない」
ハワードはきっぱりと言い放った。
「まあね」
再び、長い沈黙が続く。
「ふうーっ」
ノーラが、やりきれない表情で長いため息を漏らした。
「あらかじめ定められた未来、か」
「運命を背負うものが必要だという事だ」
「あたしが何度も生れ変わっては守護を努めてきたのは、この日のためだったのかな」
「……そうかも知れんな」
「ん?ちょっと待ってよ」
何かに気づいたようにノーラの眼が光った。
「……そう思うとだんだん腹たってきたわ!あいつ、絶対わかっていたでしょ!」
ノーラが背中の毛を逆立てて怒った。
「何が『いつか再び会えるかも知れない』よ!こっちは何百年待ってると思うのよ!
あいつったら、ほんと、嘘つきで、女たらしで、いい加減なやつなんだから!」
ハワードが珍しく声を出して笑った。
「うちのご先祖をいじめないでやってくれ」
フンっとノーラが鼻を鳴らした。
「じゃあね、あたしもう行くから!」
「すまんな、ノーラ」
「仕方ない、あいつとの約束だからね。あたしはあたしのやるべき事をやるわ」
部屋を出ようとして、ノーラが振り向いた。
「ところでさあ、あんた、なんでアーサーに会ってやらないのよ」
ハワードは無言のまま、目を合わそうとはしない。
「あんたまさか、あの子が自分に情が移らない方がいいとか考えてんじゃないでしょうね?
あの子は確かに子供だけど頭のいい子よ。その余計な優しさが、かえってあの子を傷つけている事をちょっとは考えなさいよ!」
ハワードは苦笑いしながらつぶやく。
「おまえは本当に、昔から厳しいな」
「じゃあね、ちゃんと伝えたからね!」
一陣の風とともに、ノーラの姿は消え去った。




