黒い服の女ニナ part2
「侯爵様、どうぞこちらです!偉大な大英帝国を代表される御方にお越しいただけるとは、私ども光栄至極でございます!」
いかにも胡散臭い水商売風の男がルーパス一行を出迎えたのは、かつてロシアの貴族が所有していた別荘を高級客用に改築した、この街一番の娼館だった。
ルーパスは困ったようなジェスチャーでお伴の連中に嘆いてみせる。
「おいおい、何度も言うが、わしはバカンスを楽しみに来た、ただのイギリス人なんだから大層なことは勘弁してくれ。そうだろう?お前たち」
「ルーパス様!いくらなんでもそれは無理でございます!」
取り巻きのリーダーらしき一人が両手を振り、大げさに否定してみせる。
「本来でしたら、私どもがお側に寄るのもはばかれるのですから!いくら隠したところで、滲み出る威厳は隠しきれるものではございませんよ」
「その通りですよ、ルーパス様。いくら目を瞑り顔を背けても太陽は人々を照らし出すではありませんか」
「今日はあくまで、特別!この様な下々の者が集う場所へ本来訪れることなどありえないのですから、店の主人が感激するのも仕方ありません」
みな口々に聞いているのが恥ずかしくなるほど、大げさにルーパスを讃え続ける。
あまりのバカバカしさに内心呆れ果てた店の主人が、お世辞の波をかき分け口を挟んだ。
「立ち話も何ですし、さあさあ御一行様、中へどうぞ!本日は貸切ということで、最高級の酒とこの街選りすぐりのとびっきりの花々をご用意いたしました!最高の夜をお楽しみ下さいませ!」
元々は貴族の別荘だっただけあって、贅の限りを尽くしたきらびやかな館内では、地元の楽団が軽快な音楽を演奏し、大道芸人たちが見事な芸を披露して場を盛り上げていた。ルーパスたちが席に着くやいなや、大量のシャンパンが次から次へと開けられていく。
アールヌーボー様式の巨大なソファーでくつろぐルーパスに、店の主人がひざまずいて挨拶にやってくる。
「侯爵様、お楽しみいただいておりますでしょうか?」
「おお、主人か。楽しんでおるぞ。しかしこの店はなかなかのものだな、ヨーロッパ中のリゾートの中でも指折りの素晴らしさだ」
ルーパスはご機嫌でシャンパンを口に運ぶ。
「ははーっ、ありがたき幸せ、光栄でございます」
「おい、主人!広く世界を見聞され、超一流、本物のみを知るルーパス様にここまで言っていただけるとは、きさま幸せ者だな!」
「本来はだなあ、おまえなんぞが話しかけるのも許されんお方なのだぞ!」
「その通り!ルーパス様が他のご兄弟のように気取った方なら、大変なことにー」
取り巻きの一人が兄弟の話に触れた瞬間、ルーパスの動きが止まり、場の空気が変わった。
「お、おい!」
他のものが小声で慌てて制止する。
「す、すみません!」
ルーパスは黙ってシャンパンを飲み干した。
リーダーの男が店の主人に目配せをして話を変える。
「ところで主人、酒が美味いのは十分堪能したが、アレだ、花はどうなんだ?」
「あー、はいはい、もちろん、美しい花々をご用意しております。おい!」
主人が声をかけると、店の奥から見事なブロンドの女性をはじめ、エキゾチシズムに溢れたラテン系、ほっそりとした長身の北欧系など、美しく着飾った女たちが次から次へと現れ、微笑みかけてきた。
「いずれも様々な国から集まった、指折りの名花ばかりでございます。どうぞご自由にご鑑賞ください」
お供の一人がルーパスにそっとささやく。
「ルーパス様、今日はお疲れでしょうから、お部屋でごゆっくりお休みになられては?」
「う、うむ、それもそうだな」
平静さを取り戻したルーパスは女たちをじっくりと品定めする。
「ふうむ、いずれも個性あるなかなかの名花ばかりではないか。これは悩ましいところだな」
「ルーパス様、どうせなら全ての花を並べて楽しむというやり方もありますよ!」
「おお、これぞ現代の英雄譚!アーサー王の冒険の再現でございますな!」
「おまえたち、これだけの人数、いくら何でもわしの聖剣エクスカリバーが持たぬわ!」
取り巻きに太鼓持ちの芸人たちも加わり、店中が下卑た笑いで盛り上がっている時だった。
カツン、カツン、カツン。
二階から、黒いドレスを着た女が、ゆっくりと階段を降りてきた。




