第五十三話「軋轢」(2)
最近、ユーキとナチアの様子がおかしい。
シンは、一号機の操縦席で作業に取り組みながら、二人の少女のことを考えていた。
クリスの件か、それとも、ナチアとの事か?
どうやら、ユーキがナチアに、嫉妬らしき気持ちを抱いているということは、シンも理解していた。
かといって、どうすればいいのか?
ユーキの気持ちに応えるつもりはない。それは最初から決まっている。
マーベリック乗船前。シンはボーイと共に、正体不明の敵に襲われた。素性は判明しないままであったが、あれは、シンに対する暗殺チームである可能性もあった。
イシスの生首。
それと同じ状況が、起こりうるのである。
仮にも、法に則って一国を立ち上げた身である。正式な軍隊や警察に追われている訳ではない。けれど裏側では、シンの命を狙う者は絶えない。白龍建国の道のりで恨みを買った者達は多すぎて、もはや正確に数えることもできない。自らが招いた負の連鎖であり、それに対してどうこう言うつもりはない。しかし、そこに誰かを巻き込むつもりはなかった。巻き込んで、自分の弱点となることは、許せない。
弱点となる女を作るくらいならば、深入りしなければいい。
護りたいと思う仲間ができた。それで十分、軍に入ったかいがあった。それ以上の関係を築くつもりはない。
ナチア。
唐突に、名前が思い浮かんだ。
第三の選択肢。弱点にならない女。
連邦最大の経済システム、クラーギナ財団の一人娘。
ナチアならば、問題はなかった。白龍すら凌駕する、財力と権力を備えた、ただ一人の少女。
そのことに、シンは気が付いた。
ナチアならば問題ない。
頭の中に、成熟の度合いを増してきた、絶世の美少女の姿が浮かび上がる。
…ふん、俺は最近、どうかしているな。
軽く頭を振る。
そんな自分ではないと承知していた。
だいたいが、ユーキにせよ、ナチアにせよ…。
「みゃあ」
思考が、鳴き声に中断された。
視線を移すと、スクリーンに映し出されたモニターの中で、キキが命じられた作業が終わったことを知らせていた。
…こういうのを、可愛い、というんだろうか?
キキは、次の命令を待つのに飽きて、顔を掻きはじめていた。
飽きっぽいところは、ご主人様と同じだな。
シンは、十四歳の少年を思い浮かべた。シンにとっては、クリスはやはり、少年である。
少し、言いすぎたか…。
キキはあくまでも従順で、役に立っていた。
新たな命令を下すと、キキは喜んで作業を開始する。作業効率の向上は貴重である。
そんな姿を眺めながら、シンは、中断された思考の続きを考えていた。
だいたいが、ユーキにせよ、ナチアにせよ…。
恋愛感情など、ありはしない…。
続く




