第五十三話「軋轢」(3)
クリスは、頑張っていた。
シンを見返すために、懸命になっていた。
キキの設定変更だけは少々先送りにしていたが、それ以外は、自動修復システムの修復も、エネルギー・ラインの修復も、シミュレーション訓練も、何もかも頑張っていた。
黒猫の一件から五日後、二回目の敵襲から十五日後。その日も、クリスはチーム・メイトの前で力説をしていた。
「まず、これだけ長期間、大規模の襲来がなかった以上、やはり、新型ワープ機関については、察知されていないと考えるのが妥当です。ただし、これまでの交戦を通じて、レーザーのスペクトルは解析された筈であり、連邦籍の船だという可能性については、ある程度、想定されているでしょう…」
場所は、いつものリビングであった。
「したがって、次回の襲撃は、前回までの戦闘結果、及び、連邦籍であるというファクター、それらに糊代を付けて戦力が増強されてくる、と見るべきです」
「どのくらいの戦力が、予想されるの?」
ユーキが優しく尋ねた。キキの一件以来、シンに対してよりも、クリスに優しいユーキであった。
「大口径レーザーを備えた戦艦が二から三、駆逐艦が一から二、空母が一、それに搭載された戦闘機が二十から三十。護衛艦として、巡洋艦が四から五。以上が予測されます」
「ずいぶん、大幅な増強ね…」
「一回目の戦闘でミラー・シールドの反射率を、二回目の戦闘で主砲の攻撃力を、それぞれ学習されました。あの距離でコン・シールドがブレイクされたのも、脅威に感じているでしょう。また、船体の大きさから相応の機動力が推測されますし、すでにこの時点で、通常の戦力や戦法では対抗できないことになります。それに…」
「それに?」
「不可空域から遠いこんな場所で、事情も分からない相手と、ギリギリ命のやり取りをしよう…、なんて際どい戦力では来ないと思います」
「数で圧倒できるなら、それでいいんだもんね」
「まあ、むこうも、大げさだと思ってくれてたらいいんですが…」
「油断は禁物ですわ」
「はい。ぼくもそう思います」
ナチアの言葉に、クリスも頷く。
「想定される敵の戦術と、望ましい対応は?」
シンの問いかけに、毅然とした表情で、クリスは解答を示す。
「戦艦がマーベリックの主砲を牽制し、駆逐艦と巡洋艦でプレッシャーをかけ、最後は全艦で囲んだあと、戦闘機による接近戦を挑んでくると思います。対してこちらは、主砲の威力が優っている点を活かさない手はありません。可能であれば、遠距離から戦艦を沈め、その後も、遠距離戦闘で各個撃破するのが好ましいと思います」
「戦艦が落とせなければ?」
「最低、巡洋艦程度は遠距離から落としておきたいです。そのあとは、数にまかせて包囲戦になるでしょうが、中途半端な距離が一番危険です。一気に加速し、こちらからも接近戦に持ち込むべきです。またここで、空母と、できれば一隻でも戦艦を落としておきます」
「理由は?」
「最後にワープするからです」
「何故?」
シンは、終始落ち着いた声で問いを発していた。クリスとしては、それが気に入らなかった。
「シンさんだって、わかるでしょう?」
思わず、聞き返してしまう。
「全員の共通認識を計るのが目的だ。話してくれ」
「…ワープをすれば、たとえ追われても、再び遠距離戦闘から仕切り直しができます。その際、敵に戦艦がなければ、優位に立てますし、空母がなければ、戦闘機も追ってくることができません。…それが分かるから、おそらく相手も、ワープはしないでしょう」
「分かった。では、次の戦闘はその作戦でいこう。タイミングが難しいが、クリス、いつでもワープができるよう、準備を頼む」
シンの言い方が、偉ぶっている風に聞こえるクリスであった。
「大丈夫です。キキさえいれば、明日中にワープ可能なところまで持っていけます」
きっぱりと言い放ち、そして一同を見渡す。
「じゃあ、ぼく、これからキキの設定変更の続きやりますんで、先に行きます」
背を向けて、さっさと歩きだす。
そんなクリスの後ろ姿を見ながら、ナチアが小さく息を吐く。
「いつまでも、引きずりますわね…」
シンは無言。ユーキも僅かに、顔をそらした。
<次回予告>
ナチアとクリスがシートに着いた時、敵は、マーベリックの前方で陣を整えていた。
次回マーベリック
第八章 第五十四話「襲来」
「…勝てると思っているのか? たった一機で?」




