第四十八話「対巡回警備隊戦」(2)
ナチアが、心の片隅でマーベリックの敗北を願いだした頃。
ユーキは、ミサイルに囲まれていた。
あと、二十…、十九…。
ガード・レーザーの有効射程距離圏内に向けて、迎撃可能数を上回るミサイルが、急接近していた。
一般的にミサイルは、レーザーよりも破壊力が劣るが、コン・シールドの妨害をあまり受けずにターゲットを追尾する。重力バリアによって多少の威力は削げるが、迎撃しなければ、回避は困難である。
六…、五…。
やめて。今、主砲を撃たないで。これ以上エネルギーを割かれたら、もう…。
ユーキの願いも虚しく、マーベリックは主砲の三連射を開始した。ほぼ同時に、敵巡洋艦と、戦艦からもレーザーが発射される。
ゼロっ。
ユーキの、ミサイル迎撃戦が始まった。
すでにスクリーンは、敵艦の発射したレーザーで真っ白になっている。マーベリックの三連射もそうであるが、互いにコン・シールドが生きているため、命中はしない。あくまで自機コン・シールドの強化と、敵機コン・シールドの観測が目的なのだから。
やってやるっ。
記憶を頼りに、白転したレーダー上のミサイル到達位置を割りだす。
いけっ。
一気に、三条のレーザーを解き放つ。
お願い、早く回復してっ。
ユーキは祈った。一秒にも満たない、僅かな時間。だが、その時間が、マーベリックの明暗を分ける。
エネルギー回復と同時に、三連射。
レーダーの反転が収まり、結果がユーキに提示される。
総数、九。
半分のガード・レーザーが当たっていた。敵ミサイルのコン・シールドが甘い。
いけるっ。
腕には自信があった。訓練もしてきた。距離が近づけば、そうは外さない。
八、次っ、早くっ。
レーザーを発射するほどに、エネルギー回復までの時間が延びていく。
七、大丈夫、落とせる。早くっ、回復をっ。
残りのミサイルは、すでにマーベリックの至近に到達している。
大丈夫、落とせる、大丈夫。
心の中で自分に言い聞かせながら、ユーキは照準を合わせていった。
ユーキが最後のミサイルを叩き落とした時、マーベリックは、敵戦艦の側面を通過した。
「戦艦側面、通過しますわっ」
「ミサイル、全弾迎撃っ」
ナチアとユーキの、声が重なる。
「戦艦は上方に向け旋回を開始っ。巡洋艦は、同じく左右に旋回中ですわっ」
ミサイルは迎撃し、レーザーは回避した。けれど。
「ナチアっ、だけど…っ?」
「ええ。先ほどの接触で、コン・シールドを破られましたわ…」
次からの敵レーザーは外れない。撃たれたら、船体表面のミラー・シールドで防ぐしかない。
しかしミラー・シールドは、ミサイルに対して脆弱であり、それは敵も分かっている。
ユーキの落としたミサイルは十二。相対する三隻が全砲門からミサイルを発射したら、今度こそ対処できない。
「二人とも、よく耐えてくれた。次で勝負をかける」
シンの発言の意味が、ナチアには分からない。この戦いは、すでに詰んでいる。
ミサイル、レーザーの順で攻撃されたら、マーベリックは沈む。
「ナチア、下方に旋回、一周してから、敵戦艦に対し、再度の攻撃を行う」
「…わかりましたわ」
納得など、できる訳がない。
スクリーンに表示された先ほどの側面通過ポイントに、今後の予定航路と、推定される交差ポイントが表示される。今度は、上方から敵戦艦、下方からマーベリック。交差ポイント両側面には、二隻の巡洋艦も到達する。
「コン・シールドを破ったのは、こちらも同じだ。次は引きつけて、ミサイルを発射。物理的に叩くぞ」
「了解。でも、シン…」
「敵は三隻ですわよ?」
一隻を無力化しても、二隻が残る。単純な引き算では、当然勝てない。ミサイルを撃たれたら終わりの状況に変わりはない。
「戦艦と痛み分けをするつもりはない。こちらのコン・シールドは再構築する」
「再構築? え? でも、これって…」
「嘘、ですわよね…」
クリス不在の今、コン・シールドの再構築は不可能であった。にもかかわらず、即座に書き換えられたマーベリックの論理シールド。
「これって、演習用の…ダミー・シールド?」
ユーキの声がかすれ、ナチアは絶句した。
「ペテンにかける。あと、少しだ」
旋回し、一点に向かって、再度交わろうとする四隻の宇宙船。
シンの言葉は、結果として、現実のものとなった。
続く




