第四十三話「遭遇」
ワープ・アウトは、上手くいった。
上手くいったのは、ワープ・アウトのみであった。
ワープ・アウトから亜光速空間に移り、通常空間に戻った瞬間、警戒のアラートが鳴った。
「少尉っ、水平九時にエネルギー反応っ、至近距離っ、約四百八十万っ、エネルギー・グラフから見て、小型の駆逐艦と推定されますわっ」
「クリス、こちらは?」
「現在、ダミー・シールドを展開中っ。外部発散エネルギーは…、大丈夫ですっ、ぎりぎりで商船程度のグラフを維持。ごまかせますっ」
「ユーキ、戦闘準備」
「はいっ」
「少尉っ、いきなり戦うのですかっ?」
「下手な嘘で、ばれるよりいい。海賊船とでも思ってくれた方が、まだマシだ」
周辺には、通信用のスペース・クラフトがない。相手はたった一隻。短時間で撃沈できれば、当面の口封じができる。しかし、状況は流れていく。
「だめです、シンさんっ」
「どうした?」
「エネルギー・ラインに異常発生っ。臨戦態勢に移行できませんっ」
「分かった、帝国商船のデータをまわせ」
「はいっ」
「シンっ、駆逐艦より通信入りましたっ」
「音声のみ接続用意。クリス」
「今、送ったよっ」
「少尉っ、帝国なまり、お気を付けをっ」
「了解だ。ユーキ、回線を」
「開きます」
「………」
「………」
「………」
「………」
「こちらは軍の巡回艇・リスベンだ。聞こえているのか?」
「こちら商船・クローデリア。大丈夫です、聞こえています」
「おい、映像が来ないぞ、トラブルでもあったのか?」
「すみません。どうも…ワープの際に障害が起こった様です」
「ふん。あまり安っぽいシステムを使うなよ。我々はともかく、ステーションの管制官は許しちゃくれんぞ」
「は、申し訳ありません」
「まあ良い。貴艦のナンバーと行き先、及び目的を報告せよ。妙な方向からワープして来たが、何かあったのか?」
「はぁ…。どうも航海システムも安物を掴まされた様でして。ワープ一回分、損してしまいました。必要なデータは、今送ります」
「あまり金をけちらん事だな」
「気を付けます」
「…ふむ…」
「………」
「船体の大きさと比べて…、エネルギー・レベルが大きい様だが…」
「積み荷として、小型のエネルギー機関を積んでいますので…」
「…その様だな…」
「はい」
「照合を取る。少し待て」
「はい」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「…遅いですわね」
「…こんなものじゃ、ないかな」
「…ええ、きっとそうね」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「…でも、シンさん、商船のキャプテンの真似、上手だったよ」
「ほんと、さすがシンね」
「………」
「…クリス、先ほどのデータ、本当に大丈夫ですの?」
「自信ないよ。当時は最新だったけど、もう、一年半以上も前のデータだもん」
「よくそんな情報が残ってたね」
「あれ。言わなかったっけ。船じゃないよ。ぼくの脳内メモリー」
「覚えてたの? 帝国船のデータを?」
「ヘブンに来る前、ちょこちょこ利用してたから…」
「あなたは何をしていたのだか…」
「まあ、いろいろと…」
「別に聞きませんわよ」
「へへ」
「………」
「………」
「………」
「………」
「こちらリスベン、データの照合を終了した。貴艦の平安なる航海を祈る」
「有難うございます。貴艦にも平安なる航海を」
「うむ。では…」
「少し、宜しいですか」
「うん? 何だ?」
「いえ、軍の方がいらっしゃるという事は、近くで海賊でも出たのかと…」
「ははっ。そうだな。昔はこの辺も多かったからな。安心すると良い。我々は只の定期巡回艇に過ぎんよ」
「そうですか。安心しました」
「ただ、アミューゼルの辺りには、最近またぞろ出て来た様だからな、気を付けろ」
「はい。有難うございます」
「ではな」
「失礼します」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「…行っちゃった?」
「いえ、まだですわ。現在距離約六百万。…今、時空振を確認しましたわ。帝国巡回艇、ワープへ移行します」
「もうワープ?」
「ええ。亜光速に突入。レーダーから離れていきますわ」
「ちょっと、早すぎないかな?」
「かもしれませんけど…」
「シンはどう思う?」
「分からんな。照合の時間が長いようにも感じたが…。声を聞く限り、異変を見つけたようにも思えん…」
「末端の人間が何も知らされないなど、よくある話ですわ」
「そういう事だ」
「………」
「………」
「………」
「………」
「ねえ、クリス」
「なに?」
「今よりもっとエネルギー落として、観測網から逃れられないかな?」
「うーん…」
「どう?」
「他はともかく、ワープ前後の時空震は隠すのが難しいから。最低でも、そこをどうにかしないと…」
「そっか…」
「仕方ないですわね。通常航路を外して航海している以上、いつかは目を付けられましたわ」
「まさか最初の一回で、発見されるとはねー」
「どうせ見つかったんだから、逆に通常航路を進むっていうのは、どうかな?」
「それも方法の一つだよね」
「今の予定だと、道しるべがないから、時間かかる面もあるでしょ。航空管制が回復するまでの間、少しでも距離、稼げるんじゃないかしら」
「なしですわね。少しの距離と引き換えに、船のデータを抜かれますわよ」
「うーん…、そうか。やっぱり海賊船の方がマシか…」
「肩身の狭い立場だからね…。で、その…」
「なに?」
「次のワープなんだけど、さ…」
「聞きたくない話ですわね」
「ごめん。初めは、同じ七日後を予定してたんだけど…」
「のびるの?」
「ごめんなさい。今回のワープで予想以上に負荷がかかったみたいで…、最低、十日くらいは…」
「そう…」
「最初から、つまずきましたわね」
「うん…。せめて、システムにダイブできれば違うんだけど…」
「そろそろ、できないの?」
「できませんわね」
「この船、ガード固いから。一人がダイブすると、そのための補助に、別の一人が必要で…」
「あなたが二人分、働くと言うのならば止めませんわよ」
「このメンバーの二人分は、ちょっと無理」
「そう…」
「ごめんなさい…」
「気にしないで」
「………」
「………」
「………」
「あまり考えても、仕方ないだろう」
「そうね」
「データを取って、確認を終えたら、次の準備にかかるぞ」
「はーい」
「わかりましたわ」
「了解」
せめて…、しばらく放っておいてもらえると助かるんだがな…。
メンバーが動きだした艦内で、シンは、巡回艇の消えた宙域を見ていた。
<次回予告>
巡回艇との接触から、三日間が過ぎた。
ワープ時のパワー・ダウンは事前の予想を上回り、クリスの計算どおり、この時点で、次回ワープまで七日を残していた。
次回マーベリック
第七章 第四十四話「洗濯」
「クリス、あなたの鼻は、少しおかしいですわよ」




