第四十二話「疎外」(2)
漂流七日目。
エネルギー・バイパスの修復が進み、ようやく、ワープができる状態となった。
シンとしては、もう少しワープを先に延ばしたかった。ワープすれば、帝国側に見つかる可能性が上がる。いまだ船の戦闘能力は二十パーセントを超えたばかりで、敵に遭遇した場合、仲間を危険に晒すことになる。
しかしその一方で、食料の節約も完璧には進んでおらず、全体のスケジュールから考えて、ワープを延期することもできなかった。
せめて、システム上に展開するサイバー・スペースに直接ダイブできれば作業効率が上がるのだが、この船に限っては、レベル・セブンに相応しいセキュリティがかかっている。一人ダイブするのに、二人が必要となる。トータルとしての効率は、落ちるのが明白であった。
「マーベリック、ワープ航法へ移行、亜光速へ突入」
シンの声が各操縦席に響き、三人の声が応答する。
スクリーンが一瞬白色に輝き、艦周辺の空間が歪む。
見かけ上、巨大な重力場を前方に発生させ、落ちていくかのようにマーベリックが加速する。
「第一次亜光速に突入」
クリスの声が聞こえる。声だけではない。スクリーンの隅には、多くのモニターに囲まれながら、三つの顔が表示されている。
「第二次亜光速に突入。第三次亜光速までは、約百五十秒」
シンの体が、僅かにシートに押しつけられる。
あくまでも簡易ワープのため、四人が帝国領へワープした時ほどの長い加速は必要なかった。
「第三次亜光速に突入しました。これより、カウント・ダウンに入ります」
加速が増し、シンの体が、さらにシートへと押しつけられる。振動も、より大きいものになっていく。
重力制御の要であった二号機が接続している時でさえ、ある程度の振動はあった。短距離のワープとはいえ艦内重力の制御不足は、仕方ないところである。低重力下での生活が続いている中、高重力の機会は貴重ですらある。
ヘレン。ボーイ。生きているのか、死んでいるのか。
シンは、ワープ空間に消えた二人のことを考えていた。
クリスの提案どおり、できるだけの情報収集は行いたいが…。
こちらからの漏洩は避けなくてはならない。難しい舵取りであった。
帝国が、どの程度の情報を得て、どの程度の戦力をぶつけてくるのか。何事も無く、平安のままに連邦に戻れるなどという考えは、おそらくは甘いものであろう。
護らねばならない。
シンは、マーベリックに搭乗した時の誓いを、心の中で繰り返した。
ユーキを、ナチアを、クリスを。護らなければならない。
「ワープ・インまで、あと二十秒…」
護るべき人間の数は、減っていた。これ以上、減らす訳にはいかない。
「十秒…」
三人を護り、帝国領を脱出し、そして、姿を消す。
「三…、二…、一…」
船体は光に包まれた。
ゼロ、の声とともに、跳躍に入る。
…これ以上は、巻き込まない。
眩い光の中、シンは、ただ一人でシートに座っていた。
第六章 終
<次回予告>
ワープ・アウトは、上手くいった。
上手くいったのは、ワープ・アウトのみであった。
次回マーベリック
第七章 第四十三話「遭遇」
「エネルギー・ラインに異常発生っ。臨戦態勢に移行できませんっ」




