表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/243

第四十話「排泄」(3)

「どうだ、直ったか?」

 床から上半身を出しながら、シンが天井に問いかけた。

「うん、ばっちりだよ」

「お疲れさま、シン」

「ご苦労ですわ、少尉」

 三者三様の答えが返ってきたが、クリスとナチアの声に、笑いの成分が含まれているように感じられた。

「じゃあ、床の扉を閉めて、そのままシャワーに入ってよ」

 何故か明るい少年の声に従って、シンは扉を閉め、すぐ横のカプセル・シャワーの中へと入っていった。スクリーン上に映るシンの姿を、クリスは正面から、ユーキとナチアはやや顔をそむけながら眺めていた。カプセル・シャワーを囲むカーテンは取り除かれており、透明なカプセルの中の様子は、そのままの姿で映像化されている。

「準備いいぞ」

 映し出された男の声を受けて、クリスが返事をする。

「じゃあ、これから、スクランブル・シャワーを始めるよ」

 スクランブル・シャワーとは、クリスが名付けた、高圧放水のことである。マーベリック自体のエネルギーをカプセル・シャワーに送り込む荒業で、カプセル・シャワーを、水流式洗濯機へと早変わりさせることができた。

「五分間そのままで浴びたら、そのあとの五分は、ボディ・スーツを脱いで、どーぞ」

 シンの了承を確認してから、クリスはコンソールを操作した。

「うわぁ…」

「あらぁ…」

 思わず、ユーキとナチアから溜め息が漏れる。

 スクリーン中では、凄まじい勢いで放出されるシャワーが、屈強な体を包み込んでいた。

 あれ、わたしもやりたい。

 わたくしもですわ。

 二人の少女は、切に思った。

 …この二人には、見せちゃいけなかったかな?

 ユーキとナチアの顔を見て、クリスは思った。

 二人のシャワー好きは、もう十分に承知していた。やりたい、などとせがまれては大変である。本来、生活設備にまわせるエネルギーは限られている。これ以上の浪費は、何としても避けなければならない。今回はあくまでも特例なのである。

 オニキスを積んだ宇宙船で、まさかシャワーのエネルギーを気にするなんて…。

 クリスとしても、やりきれない思いである。

「そろそろ五分ですよ。シンさん、ボディ・スーツを脱いでください」

 クリスは、少し早めに声をかけた。いくら何でも、裸のシンを平気で見ることのできる少女達ではない。クリスとしては早いところ、二人の目からシャワーを遠ざけたかった。

 案の定、ユーキとナチアは悔しそうに後ろを向き、カプセル・シャワーの中では、シンがボディ・スーツを脱ぎはじめた。

 カプセルの外壁は、透過率ほぼ百パーセントの材質でできており、水滴もつかないよう加工が施されていた。これは、貴重な水を内部に残さないための工夫である。

 設計者の考えがどうあれ、結果として、カーテンを取り外したカプセルは、内部がまる見えの状態である。大量の水流に包まれているが、シンの姿は、ある程度はっきりと見て取れた。

 …これは、使えるかもしれない。

 後ろでは少女達が、スクランブル・シャワーの使用許可の取り方について、小声で話し合っている。

 クリスは牽制にでた。

「うわあ。シンさん、いい体してるなあ。ここからだと、よく見えるなあ」

 ちょっとわざとらしいかな、と思いながら声をだした。

 よく見えるですって、どうします、ユーキ?

 カーテンがあれば、平気じゃない?

 それもそうですわね。

 シートの裏側から、声が聞こえる。

「でも、ここからエネルギーの調整が必要だし、カーテンを付ける訳にもいかないしなあ」

 え、そうなの? どうして?

 マーベリックのエネルギーは膨大ですわ。それを些細なシャワーに使うのですから、微調整は必要…とはいえ、カーテンの有無と関係があるかどうかは…。

 関係ない?

 かもしれませんわ。クリスは嘘つきですから。

「ぼくは嘘つきじゃないやっ」

 つい反応して、シートから立ち上がるクリスであった。

「そんなに、わたくし達にシャワーを使わせたくありませんのっ?」

 思わず、ナチアも振り返る。

「まぁまぁ、二人とも…」

 ユーキも、二人の間に入ろうとする。

 と、その時。

「クリス、水が出なくなったぞ」

 シンの声が、操縦席に響いた。

「あ、うん。ごめん」

 振り向いて、コンソールに手を伸ばすクリス。

 つられて、スクリーンに目を向ける二人の少女。

「!」

「!」

 何も知らないのは、スクリーンの中の裸のシン、ただ一人。

「きゃああああああああああっ…」

「いやですわぁあああっ…」

 二人とも、子供だな。

 クリスは耳を押さえながら、そう思った。

<次回予告>


 漂流中、四人が揃った際に、全員で行うことがいくつかある。

 そのひとつが、体力トレーニングである。


次回マーベリック

第六章 番外話「トレーニング」


「あなたを見ると、なごみますわね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ