第三十六話「進路」(2)
まず、機体スペックの概要。
最大戦速は、秒速約二万七千キロ。光速の約九パーセント。機動力の要であった二号機を除いても、高速戦闘機並みのスピードを叩き出すことが可能。
攻撃兵装は、主砲・超大口径レーザーが一門、最大有効射程距離約三百八十万キロ。これは一号機に装備。副砲・大口径レーザーが一門、同射程距離約二百三十万キロ。これは三号機に装備。対ミサイル用ガード・レーザーが各機体に八門ずつ、計十六門装備。ミサイルは、射出口が各機に四つ、装填数は各機三十六。予備のミサイルを合わせると、総計百四十四。また、ミサイル製造用のパッカーが一号機内に備わっており、多少の追加製造が可能となっている。
防御機構としては、メインとなる対レーザー用ミラー・シールドが各機体に全面装着。その反射率は、連邦、帝国通じて、かつてないほどの高さを誇る。対ミサイル用高出力重力バリアを各機体に搭載。極めつけは、シールド修復を含めた完全自動の修復システム。これは三号機にシステム中枢が存在し、理論上は、すべての攻撃兵装と防御機構を失っても、最短一ヶ月での自己修復が可能となっていた。
標準的な戦闘機を相手にした場合の戦力比は、一対二十を超える。
内惑星連邦最高機密、レベル・セブン。最新鋭試作戦闘機“マーベリック”は、四人の天才を唸らせるほどの性能を有していた。
「なんか、すごい…」
スペックの説明を聞き終えた、ユーキが嘆息した。
「そうですわね」
「おおまかに言って、主砲は大型戦艦並み、機動力は高速艇で、防御力は空母に匹敵します」
「…そんなすごい装備、なんでワープ機関の実験機についてるの?」
ユーキとしては、当然な疑問。
「装備、ではなくて、そもそもなぜ戦闘機なのか、ですわよね」
ナチアが訂正する。
「ほんとだ。なんで?」
答えたのは、ナチアでなく、クリス。
「ええっと、ですね。もともと、ワープ機関と戦闘機の開発は、別々に進んでいたんです。それが途中で、ワープ機関の情報が漏れちゃって…。それをカモフラージュするために、もう一つのレベル・セブンだった試作戦闘機の開発に混ぜようって話になったみたいです。船の数も三隻で、ちょうどあっていたし。外枠を作る時間も省けますしね」
「ずいぶんと、おおざっぱなのね…」
「とにかく、急いでたみたいです。噂が広まる前にどうしても、って。あと、戦闘機の開発サイドからも、強力なアプローチがあったようです」
「どうして?」
「ユーキさん、オニキスって、知ってますか?」
「鉱石のこと…じゃ、なさそうね」
「オニキスって言うのは、現時点で、最高圧縮率のエネルギー母体の通称名です。人工物とはとても比較にならなくって、内惑星連邦に、五つも存在しないって言われてます」
「それが、この機体に使われているの?」
「うん、そう。各艦に一つずつ。これがなければ、もっと開発に時間がかかった筈だし、長距離のワープはできても、不可空域までは越えられなかった。何よりエネルギー量が膨大で、戦闘機の開発サイドからも、これを搭載したいって要望が強かったんだ。結果として、その希望がとおって、ご覧のとおり、デタラメな能力の船が誕生した、って訳…」
「ふーん。なんか、いろいろあるのね…」
「言っておきますけど、ユーキ」
口をはさんだのはナチア。
「今、そこの小さな子供がペラペラ喋ってる内容は、どれをとっても、レベル・セブンの…最高機密ですわよ」
「うん。わかる」
ユーキが頷き、シンが口を開く。
「ポテンシャルが高いのは理解したが…。それを百パーセント使用できるのは、いつの話だ?」
肝心のエネルギー・ラインが修復されていない以上、それが一番の問題であった。
クリスとしても当然調べていたし、結果を知ってはいたが、あまり言いたい内容ではなかった。だが、言わずに済むものでもない。
「完全にスペックを解放できるのは、二ヶ月くらい先です」
二ヶ月。それは、不完全な状態のまま、帝国領内を航行しなければならない最低限の期間であった。
「現状は、どの程度だ?」
「約、十五パーセント。でも、最初のワープができるのは一週間後で、その時までには、倍くらいには上げてみせるよっ」
倍。それでも三十パーセント。いくらマーベリックが優れているとはいえ、平均的戦闘機程度の性能しか得られない計算となる。しかも、食料の関係から、修復をゆっくり待つような時間もない。
シンは答えず、次の質問に移る。
「帝国が、本艦のワープ・アウトを見つけた可能性は?」
「五分五分です」
クリスは、自らの推論を話した。
「今回のワープでは、相当大規模な時空震が発生したと考えられます。これが、帝国の観測網に引っかかった可能性があります。ですが一方、ワープ・アウトからすでに、通常空間で一年と半年以上の時間が流れています。いまだ接触がない以上、少なくとも、本艦の詳細位置までは、掴まれていないものと考えます」
「…まったく気付かれていない可能性は、ありますの?」
ナチアの質問に、クリスは頷く。
「小さな可能性ですが、あります」
「では、どこかにいる二号機を探し出して、合体し、超長距離ワープを行う…、という手はありませんの?」
質問、というよりは、これは願望に近い。
「それができれば、一番いいんですが…」
クリスは、残念そうに首を振った。
艦内の重力場は、三機が揃っていた時よりも、正確に三分の二になっており、失われた一機の存在感を、暗に四人に伝えていた。
「最大限範囲を拡大したレーダーにも、それらしき反応はありませんでした。データが残っていれば、何か分かったかもしれませんが…、メモリーの損壊が激しく、こちらの修復は困難です」
「そうですの」
残念ではあるが、予想はしていた。
「それに…」
クリスはちらりと、ユーキを見て続けた。
「二号機が無事なら、当然、帝国への亡命を望むと思います」
「ボーイでは、ヘレンを説得できませんでしょうし」
「状況的にも、困難だと思います」
「二人が亡命したならば、本艦の位置が掴まれていないのは、おかしいですわ」
「あくまで、推測の域を越えませんけど…」
「よろしいですわ。とりあえず、二号機は別にして、これからのことを考えなければならない、ということですわね」
「うん」
確定した事実ではない。必要以上に暗くなることはなかった。
「では、どうするか…」
シンが、三人の顔を見渡す。
続く




