表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/243

第三十三話「暴露2(後編)」(シン3)

「…そうして俺は国を出て、軍に入ったんだ」

 シンの話は終わった。

 白龍を知らぬ者は多くない。

 しかし、それを築いた人間の正体は、暗く、厚いベールに包まれていた。

 ユーキなどには、世界が違いすぎて現実感が沸いてこなかった。

 最初に言葉を発したのは、ナチアであった。

「…朱眼の黒豹…。白龍の真王…」

 ため息交じりの声に、ゆっくりと答えが返る。

「懐かしい名だ…。さすがナチア、よく知っている」

「多少の偽装は予想していましたけれど…」小さく首を振る。「敵対勢力の首領が、レベル・セブンに入り込むなど…。笑い話にもなりませんわ」

「敵対の意思はない。だからこそ、入り込めたのだろう」

 二人の会話を受け、クリスが、従来の好奇心を取り戻した。

 シンを恐ろしいと思う気持ちは、まだなかった。まだ少し、実感が足りなかった。

「ねぇ、シンさん」

「何だ?」

 答えるシンの声も、普段と変わらないようにクリスには聞こえた。

「黒豹って、シンさんのこと?」

「そうだ。昔からの通り名だ。朱眼ではよくある事だが、本名を知っている者の方が少ない」

「白龍の真王も、シンさん?」

 この質問に、シンは少し、困ったような顔をつくる。

「クリスも分かると思うが、白龍の真王などというものは、本来存在しない。あの国は、白龍王が治めている。その上は、ない」

「でも、実在するんじゃないかって、裏の世界では有名だよね?」

「どこで聞いたのか知らんが、噂は絶えんだろうな。白龍を興した黒い豹はいなくなり、残された十王も、その帰りを待っている。仕方のない事だ」

 軽くシンが頭を振る。

 そんなシンを見て、ユーキが初めて、口を開く。

「シン」

「何だ?」

 シンとの距離は、僅か一メートルもない。その距離の、何と遠いことか。

「なぜ、軍に入ったの?」

 ユーキの聞きたいことではなかった。

「理由はいくつかあるが…。争い、戦う以外に、するべき事が見つけられなかった」

「そう…」

 沈黙が、静かに押し寄せる。

 ナチアとクリスは言葉を発さなかった。この沈黙を破る権利があるのは、ユーキだけだと、二人は理解していた。

 そして。長い沈黙を、ようやくにしてユーキが破る。

「…人を、殺したの?」

 視線は、真っ直ぐにシンに向けられた。

「ああ」

 シンの視線も、ユーキから離れなかった。

「女の人に…、乱暴、したの?」

 ユーキとしては、もっとも知りたくない事実であった。

「ああ」

 シンの回答は、ユーキには重い。

 嘘でもいいから、ノーと言ってほしかった。

 そしてユーキは、最後の質問をする。最大の関心。知りたい現実。イエス。そう言われることだけが、ユーキの望み。

「…後悔、してる?」

 お願い、してるって。

 お願い、シン。

「あの過去がなければ、今の俺は存在しない」

 否定でも肯定でもない、ただの事実。シンの声は、あくまで冷たかった。

 ユーキは言葉を失い、見守る二人も、声をかけられなかった。

 沈黙が、その流れを再開する。

 だが、今度のそれは短く、破ったのはシン。

「三人とも、不快になったのなら、言ってくれ」

 一同の顔を見まわす。

「必要であれば、俺一人で操縦席に戻ろう」

 シンの声は、落ち着いていた。

 けれど、

「やだっ、それはやだっ!」

 ユーキの叫びが放たれる。

 許せない。

 ユーキの価値観では、絶対に許せないことを、シンはした。

 その当時、その場所における価値観が、今の、自分と違うのは承知している。現在の法律が遡って適用されないのも理解している。頭では分かっている。だけど感情は許せない。だけど。でも。

 それでも。わたしはこの人を…愛してしまった。

「シンさん、千年前の人類は、動物を育ててから殺して、食料にしていたらしいよ」

「千年ではない。動物の話でもない」

「同じだよ。当時の朱眼では、それが日常だったんでしょ? その日常の中で、必死に生きてたんでしょ? 過去は過去として、ぼく達は今のシンさんを知っている。仲間想いで、努力家で、どんな強敵にも難問にも立ち向かう…。そんなシンさんを責められないし…、嫌いにはなれないよ」

 少年の声が横から聞こえた。

 ありがと、クリス。その言葉、わたしも言いたかった。

「わたくしは、元から少尉に好意などもってませんし。余計な気遣いは不要ですわ」

 少女の声も、聞こえた。

 ナチアのばか。でも、ありがと。シンの次に、あなたのこと好きよ。

 ユーキの視線は、最初から最後まで、シンから離れることがなかった。

 …あなたは、いつか、償わなくてはいけない。

 それはもしかして、この七十一時間なのかもしれない。

「だいたい、この能天気娘の世話をするのは、少尉の役割ですわ」

 …能天気は余計よ、ナチア。

 ………。

 …けど…。

 傷つけられた人達には…なにも…、なにも言えないけど…。

 この人と一緒に死ぬ。

 それだけは、許してね…。

<次回予告>


 残り、二十四時間を切った。

 温度の低下と、酸素の欠乏が、実感として現われるようになった。


次回マーベリック

第五章 第三十四話「限界」


「わたくし…、あなたを、許せませんわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ