第三十三話「暴露2(後編)」(シン2)
高等部を纏め上げたシンは、次なる強敵に備えはじめた。
次なる敵。それは、マフィアと裏社会であった。
高等部は、シンが入る以前から、特定の組織と繋がりを持っていた。孤児院の少女達を用いた売春や違法ドラッグの販売も、この組織への献上金作りのためであった。即座には組織に対抗できないと考えたシンは、組織の目を誤魔化すため、少女達に売春を、少年達にドラッグの販売を続けさせた。それと並列的にマネー・ゲームにも手を広げ、軍資金を増やし続けた。孤児院は十六歳で卒院である。残ることはできない。シンとしては、それまでに何としてでも、戦力と資金を確保しなければならなかった。すべては、自らが征服されないために。
シンが女を知ったのも、高等部に入ってからであった。初めに求めてきたのは、少女達の方からである。中等部時代のシンを知る者も多かったが、女性に対して乱暴しないイメージを、彼女達は持っていた。けれど、蓋を開けてみると、やはりシンも売春を強要してきたのである。少女達は思った。シンが女の味を知れば、自分は街角に立たなくてもよくなるのではないのか、と。見知らぬ男達に買われたり、以前のように、粗野な暴君達に犯されることを考えれば、少年とはいえ魅力のあるシンに抱かれる方を少女達は選んだのである。かくして、シンは複数の少女に迫られ、これをことごとく受け入れた。中には、本当にシンのことを愛するようになる者もいた。けれど、シンは女を知っても、売春行為をやめさせはしなかった。組織を欺くため、シンとしては当然の選択であった。少女達の失望など、気にはしなかった。その一方で、シンからも女を求めはじめた。特定の相手を作ることはなかったが、シンが寝る時には、必ず複数の少女が呼ばれた。孤児院の少女達に飽きると、シンは街からの調達を始めた。これには、部下達の戦闘訓練も兼ねることになった。ターゲットの選定は、純粋に難易度の高さで決められる。警備の厳しい家や施設を襲い、時には実力を行使し、時には隠密行動を行い、時には色仕掛けで。様々な方向から、部下達の能力を高めていった。シンが高等部にいる間に調達された女の数は、少なくとも三桁の台に上っていた。部下の少年達としても、シンのお下がりとなった女を手に入れることができるため、十分にうまみがあった。捕らわれた女達は、数日から数週の間孤児院で寝食し、最後には強力な催眠術を受けて、すべてを忘れて自宅へと帰されていった。一部には、そのままシンのもとに留まる人間もおり、ある者は忠実な部下として、ある者は資金源かつ情報源の役を担う高級コール・ガールとして、黒髪の少年に仕えることになった。
こうして五年近くが過ぎ、シンは着実に戦力を増強していった。孤児院の外でも、複数のキッズ・マフィアを傘下に入れ、勢力は拡大した。
あとは卒院を待つだけの状態となった時、事件が起きた。それは、特別な出会いであった。
相手の名は、イシス。シン達が軍事演習を兼ねて誘拐してきた女の一人である。時にシン十五歳、イシス十九歳のことであった。
いつものように、他の女と同時にイシスを抱いたシンであったが、そこから先が、常と異なった。次の夜も、その次の夜も、イシスを求め続けたのである。当時、知力・戦闘力を兼ね備えた一人の女と一人の少女が、シン直属の部下として存在していた。いつも側にいるため、シンの寝所に呼ばれる機会も多く、二人もそれを求めていた。しかし、その二人にすら、声がかからなくなった。毎晩複数の女を抱いていたシンが、イシス一人で満足しはじめたのである。二人の女幹部は焦ったが、他の幹部達は、状況の変化を歓迎した。もとはといえば、やがて戦うであろうマフィアや裏社会から受けるプレッシャーが、シンを女へと駆り立てるものと、幹部達は理解していた。ドラッグなどに走られるよりは望ましかったが、女を抱く、という行為が現実逃避である以上、シンにも不安定な部分が存在せざるをえなかった。その不安定部分を補うべき存在が、イシスという少女だったのである。孤児院の中、少女は異彩を放ちはじめた。シンの言うことをおとなしく聞く一方で、時折、厳しい言葉も言ってのける。シンの落ち着きは増し、組織に対する戦略も冴え渡ってきた。二人の女幹部も、やがてはこのイシスを、認めざるをえない状況になっていった。
それまでのシンには、優秀な部下はいても、友人と呼べる人間がいなかった。イシスこそ、初めて手に入れた友人であり、恋人だったのである。
だが、穏やかな日々は、唐突に終わりを告げる。
イシスが姿を消したのである。
当時、シンの命令により、イシスにはかなりの自由が与えられていた。それ故に、イシス自身の意志で出ていった可能性もあった。シンも内心で動揺はしたが、あえて、捜索は行わなかった。そうして、情報もなく、不安定な一週間が過ぎた。イシスのいない生活に、誰もが慣れ始めた頃、少女は帰ってきた。
朝。孤児院の玄関の前に、それは置かれていた。
イシスの生首。
自らの血と、男達の精液にまみれた、無残な姿であった。
翌日、街の一角で右手が発見され、さらに次の日には左手が発見された。イシスの全身が揃ったのは、最初の生首放置から、一週間が過ぎる頃であった。
シンに対する見せしめであった。
卒院を前にして、勢力を拡大させるシンに対して、大人社会から無言の恫喝が行われたのである。
少年は気力を失った。
変わり果てたイシスとともに、何も食べず、眠りもしないような状態が続いた。
幹部達の言葉もシンには届かず、組織の圧力は強まる一方で、シンの部下や配下のグループは、次第に追いつめられていった。
そして日を重ね。
遂に、目覚めの時がくる。
十日ぶりに部屋から出てきたシンは、まず、イシスの火葬を命じた。
孤児院を墓標に見立て、決して小さくない、施設のすべてに火が放たれた。
その炎を前にして、シンの口から次々と命令が発せられる。
人員を配置し、情報を整理し、グループに檄をとばし、武器を揃え、そして戦いを開始する。優秀な部下達が準備を整えていたために、行動は迅速だった。
イシスを襲った者達が、真っ先に潰された。
少女の死体から得られた情報から、相手は簡単に特定されていた。彼らは、隠れ家から引きずり出され、シン自らの手で八つ裂きにされた。街の真ん中で、五人の男達は体を切り刻まれ、無数に分かれた死体は、そのまま、所属する組織へと送りつけられた。
本格的な抗争が始まり、戦線は拡大していく。
シンの最終目標が何処にあるのかは、幹部達にも分からなかった。恐ろしいほどの狡猾さと戦闘力、そして指揮能力を兼ね備えた彼らのボスは、戦いを求め続けた。イシスの仇である組織と、その上層マフィアを潰してもなお、刀を鞘に納めようとはしなかった。シンとその軍勢は、次々と街の組織を潰し、吸収していった。僅か一年の間に、組織という組織を潰し、マフィアというマフィアを滅ぼして、少年は「魔都」と恐れられた、その街を支配するに至ったのである。一連の抗争で死んだ人間は、数万とも数十万ともいわれるほどの、それは戦争であった。
そして。
シン十七歳の時、街は独立し、国家となった。
政界や財界を動かし、脅迫し、あらゆる手段を用いて、シンが建国してしまったのである。もともと、独立のための地盤がない訳ではなかったが、内部抗争の激しさから、実現はしないものと思われていた。内惑星連邦中の政府や指導者が驚く中、街は独立宣言を行った。
政治体制や経済機構、外交方針、その他国家運営に必要なすべてが、シンと部下達の間で決められた。
そして、シンは消えた。
残された幹部達は、行方は探すな、という命令に厳格に従った。代わる国王には、シンの妹分であり、幹部の中で最もシンに可愛がられていた少女を据えることに決定した。だがそれも、自分達のためではなく、ただ一人の主を待つための、手段でしかなかった。
街の名は、朱眼。金と暴力の渦巻く魔都。
国の名は、白龍。連邦中のブラック・マーケットを支配する、恐怖の王国。
それを統べるのは、シンの元幹部達。白龍の十王。暗黒社会に名を馳せる、巨大なる剣であり頭脳。
頂点に立った少女の名は、メイ。だがそれを知る者は少ない。今や、白龍王が、彼女の名前である。
そして、巨大な暗黒帝国が待ちわびる一人の男。
その男は、こう呼ばれる。
白龍の真王、と。
続く




