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第三十一話「暴露2(前編)」(ユーキ)

 テーマは「最も秘密にしていたこと」であった。

 クリスの提案に、初めは嫌がっていたユーキであったが、長時間待たせた弱みもあり、最後には了承した。シンについては、肩をすくませたのみで、異存はないものとクリスは理解した。

 そもそもクリスとナチアがこの提案に至ったのは、自分達が死ぬ前に、これまで隠していた後ろ暗い過去を話してしまおうか、という想いからであった。また、現実的な問題として、まともに会話ができるのは、あと十時間もないかもしれない、という切迫感もある。

 順番は、ユーキ、ナチア、クリス、シンの順に決まった。これは、秘密が大きそうな順ということでクリスが提案し、積極的には反対されなかった結果である。

「その前に、確認しておきたい事がある」

 暴露大会が始まろうとすると、シンが口を開いた。

 三号機のシャワーやトイレの件もあり、一度、全員で船内各所を見てまわろうと、提案したのである。

 これには全員が同意し、揃っての探索が始まった。

 まずは一号機の操縦席と、副操縦席に。ドアは開かれたままで、もう閉じることもできない。そして通路。十字路に移動。かつて、二号機へと繋がっていた、接続ハッチへと。

 何事もなかったかのようにして、今は閉じられている。

 四人は無言で、しばらくの時間をハッチの前で過ごした。ユーキを含め、もう取り乱すような者はいない。

 その後、十字路に戻り、船尾方向へ進む。ここには、緊急用の脱出ポッドへと続くドアがある。ここも閉じられて、開けることはできない。緊急時に使えない脱出ポッドなど、本来論外であるが、機密漏洩対策の一環でこのような構造になったのであろうと、今は納得するしかない。

 一号機の確認を終え、三号機に移動して、同様に各所をまわる。

 二号機へと繋がるハッチの前と、三号機用の脱出ポッドに続くドアの前では、やはり同様に、一同は立ち止まった。

 何も言えない。できることもない。

 シャワーと、トイレと、二段ベッド。そしてシーツ。一号機にないものは、そのくらい。

 これから低酸素状態になる。水分は適宜取ろうという話になった。寒くなったら、シーツを全員でかぶろうという話になった。それで、どれだけ時間が稼げるかは、誰も話そうとしなかった。

 三号機の船首側。ベッドのある場所で、三人は腰を下ろした。

 ユーキとナチアが、並んでベッドの上に。シンとクリスは、その前の通路に直接座る。

 遺書についても確認した。

 音声データくらいならば、ここに残すこともできる。

 しかし、誰かが見つける可能性は低く、それが連邦の人間とも限らない。

 軍に入る際に、その時点での遺書を作成するのが基本的なルールでもある。

 四人全員が、この場で新たに遺書は作らない意思を示した。

 こうしていよいよ、やれることがなくなる。

「まあ、人間、どうせいつかは死ぬんだし…」

 割り切って、さっぱりとした顔のクリスが言った。

「暴露大会、始めようか!」


「じゃあ、まず、わたしなんだけど…」

 一番手のユーキは、初めから言葉に詰まった。実際ユーキには、たいした秘密などなかった。一つだけ、思い浮かぶことがあるが、それはさすがに、ためらわれた。

 何を話せばいいのか、考えている内に数分が過ぎ去り、とうとうクリスが、待つのに飽きてしまった。

「もう、なんでもいいよ、ユーキさん」

「でも、みんなが期待してるようなことじゃないと、悪いし…」

 救いの言葉を受けても、ユーキは悩むのをやめようとしなかった。こういうところが、至って生真面目なユーキであった。

「ほんとうに、なんでもいいですわよ、ユーキ」

 ナチアも呆れて、声をかけてきた。

「でも…」

「秘密でなくてもいいですから、あなたの一番恥ずかしいことでも、話せばいいのですわ」

 ナチアとしては、軽い発言のつもりであったが、ユーキは一瞬、動きをとめた。

 その一瞬を、ナチアは見逃さなかった。わずかな気の乱れ。だが、自分になら、分かる。

「…なにか、あるようですわね。隠しても無駄ですわよ」

 しまった、という気持ちが、今度は明らかに顔に出た。

「え…、えと…」

 言っていいものかどうか。悩みはしたが、もはやナチアと、好奇心全開のクリスの追求はかわせないと、ユーキは諦めた。

「じゃあ、話すけど…、ほんと、恥ずかしい話だから、笑わないでね…」

「うん、笑わない」

「なにを言ってますの。笑わせていただくために、聞きますわ」

 クリスはすでに笑顔。ナチアは真顔。

 ふう…。

 ちら、と前を見る。シンにだけは、聞かせたくなかった。でも、仕方がない。

 クリスの言うとおり、どうせ死んじゃうんだし。

 そう考えると、少し気が軽くなった。ユーキは話し始めた。

「ええとね…。私、小さい時にお母さんが死んじゃって…」

「いきなり、重いですわね」

「笑えるの、それ? 笑っていい話なの?」

「もう。ちゃんと聞いてくれないなら…」

「わかりましたわ」

「邪魔しないから、続き、お願いします」

「うん。で、そのお母さんって、冒険家、してたのよね。だーれも登らないような極地の山でスキーしたり、砂漠を横断したり…」

「それって…、“ヨーコの大冒険”だよねっ?」

「知ってるの?」

「とーぜん。あれを見ないで、子供はいったい、どこにダイブするのさ」

「子供はおとなしく、ベッドにダイブするべきですわ」

「教育上も見るべきだって。勇気、努力、友情、愛情、その他、人生に必要なもの全部。ぜーんぶ、ヨーコが教えてくれた」

「荒廃した教育環境ですわ」

「ああいうことになっちゃったから、ユーキさんに話すの、ためらってたんだけど…。永年保存絶対確定。最終回には、もう、ぼく、号泣したよ。涙で何も見えなくなった。今でも再生の回数、増え続けてる筈だよ」

「データがそこにある以上、減る理屈がありませんわね」

「それは、そーなんだけどさ…」

「ねえ、二人とも、聞く気ある?」

「あっと。ごめんなさい。続けてください」

「よろしいですわよ」

「ん、もう…。それでね。二人は知ってるみたいだけど、大きな事故で死んじゃったの、お母さん。結果として、最後の冒険になっちゃった。そのあと、お父さんが連邦軍に入ることになって…。私も、ご覧のとおり…」

「………」

「………」

「………」

「…え? なに? 終わり?」

「そんなわけ、ありませんわよ。ねえ?」

「う、うん…」

 ユーキはここで一度、息を吐く。ここから先は誰にも話したことはない。必要もないし、話すことなど、ありえない話だった。

「…で、小さかった私に、お母さんは、色々なプレゼントを残してくれたの。手作りのオモチャに、たくさんの手紙…。特に、体感系データが多くって…。元々、冒険家なんてしてたから、普段から万が一のこと、考えていたんだと思う。でね、データのほとんどは、今でもサイバー・スペースに残っているんだけど…」

 言いたくない。

 言ってもいいのかな。

 言わない方が…、って、もう、ここまできたら話さなきゃだめ…よね…。

「…それとは別に、一般に公開されてない、私にだけ残されたデータもあって…。私はそれを見て、育ってきたんだけど…。中に一つだけ、私が大人になってから見るようにって、お父さんが預かっていたものがあって。士官学校卒業する時に、それ、もらったんだ。ちょっと早いかもしれないが、って…。それで、その中身がね…。ええと、プロテクトが厳重で、私にしか開けられないように、厳重にロックされてて…。だから、お父さんも中身を知らなくて…、それで、その、中身が…」

「………」

「………」

「………」

 ユーキは大きく、深呼吸した。

「中身が、ね。…男と女の、子作りの方法、って…」

「………」

「………」

「………」

「………くっ」

「………ぷっ」

「くっ、くっくっく…。ユーキ、あなた…」

「あはははははははっ。ひひひひひっ、ひーっ、ひーっ、くっ、くるしっ…」

「…だから、言うのいやだったのよ…」

 ひとしきり、ナチアとクリスに笑われて、ユーキは口を尖らせた。

 それでも、この状況で笑顔になれたのは、それはそれで意味があったのかもしれない。

 これまでずっと、実際に体験を済ませるまではと、自分で蓋をして、封じていた記憶だったのだが。

「あー、笑った」

「ユーキにしては、いい話でしたわね」

「はいはい。よかったわね」

「さすが、ヨーコの大冒険。ユーキさんのお母さん、って感じだね。なんていうか、天然っていうのか…」

「そうですわね…。それにしても、そんなプレゼントをもらった割には…」

「うん。その割にはユーキさん、その手の話に疎いよねー」

「仕方ないのよ。過程がすっぽり抜けてたんだもの」

「なんですの?」

「過程?」

「そう、過程。付き合うまでの過程。告白して、デートして、キスをするまでの、過程」

 ユーキは、もう、やけになっていた。

「そういうのは、人それぞれだから、自分で考えて、自分で歩みなさいって。データの中では、キスした時の舌の動かし方とか、ベッド・インしたあとのテクニックとか、そんなのばっかり。もう、赤面とおりこして、呆れちゃったわよ」

「すごいねー…」

「それを、最後まで見ましたの?」

「…もう、すごい時間かかった。どんな淫乱女にしたいのかってくらいに」

「え? 見たんだ? お母さんの…を?」

「亡き母の名誉のために言っておくけど、説明だけで、実際のシーンはなかったわよ」

「そうですの」

「わたしの中では、お母さんっていうより、お姉さんって感じだし…。当たり前だけど、データの中じゃ、若いままだし…。っさあ、わたしの話はこれでお終い。これ以上は、なし。なにもなし。楽しんでもらえたみたいで、よかったわよ」

 ユーキが区切ったが、話の矛先は、次の順番であるナチアではなく、もう一人の黒髪の持ち主へと向かった。

「残念でしたわねぇ、少尉」

「すんっごいキス、できたかもしれないのにねー」

「やめてよ、もう…」

 シンへと向かった攻撃が、次第に暴走を始めた。ユーキは置き去りで、シンは反論せずに聞いていた。

「覚悟を決めていた、ユーキが憐れですわ」

「うん、ほんと。ユーキさん、かわいそう」

「男ではありませんわね」

「やっぱりシンさん、リアルに興味ない人なんだよ」

「あーら、嫌ですわね。趣味に留めておけばいいものを。不健全ですわ」

「ぼくには違うって、嘘ついたんだよ。きっと、サイバー・プレイでしか興奮できない人なんだ」

「その気もないのに、年下に色目を使うなど…、最低ですわ」

「大人なら、もう少し、気を配るべきだよね」

「あなたは気を付けるのですよ、クリス。連邦の国力を落としてきたのは、こういう人間ですのよ」

「大丈夫だよ、ナチアさん。ぼくがもし生き延びたら、しっかりパートナー作って、ばんばん子供を作るんだ」

「その調子ですわ。決して、少尉みたいな人になってはいけませんわよ」

「うん、任せてよ」

 ごめんね、シン…。とばっちりで…。

 小声でユーキは謝った。

 いや、自業自得だ。

 シンも小声で返す。

 自業自得は、わたしもかな、はは…。

「ちょっと、二人ともっ」

「聞いていますのっ」

「え、うん。聞いてます。ごめんなさい…」

 何故か、一緒に怒られるユーキであった。

<次回予告>


 ようやくにして、二番手に話が進んだ。言いたいことを言いたいだけ言って、だいぶすっきりした感じのナチアである。


次回マーベリック

第五章 第三十二話「暴露2(中編)」


「さて、次は、わたくしですわね」

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