第二十四話「真相」(2)
監察衛星オルドープは消滅した。
レーダー撹乱用のコン・シールドを、展開する時間もなかった。白く、太い光の矢に中心部を貫かれ、爆発し、そして消滅した。
光の矢を放った宇宙船の中では、沈黙が続いていた。
沈黙を破ったのは、ボーイの呟きであった。
「すげぇ…」
呟いたのは、自分達の乗る船が発射した、レーザーの威力についてであった。
時空震が到達して、レーダーがホワイト・アウトする。
いくらコン・シールドを張っていなかったとはいえ、交易ステーション並みの大きさを持つ監察衛星を、ただの一撃で屠った、その結果である。最後の爆発自体は、監察衛星のエネルギー機関の暴走によるものであったが、それを導いたのは、レーザーである。その威力は、通常考えられる戦闘機の主砲のスケールを遥かに凌駕していた。
だが彼らは、その破壊力について称賛していられるような状況にはなかった。
すでに、ヘレンからの命令を破って、通信器は六人全員オープンになっている。
「どういう事か、説明してもらいましょう、教官」
揺れる艦内に、恫喝を孕んだシンの声が響いて、一同は我に返った。
「どういうことなんだっ?」
「なぜっ?」
「どうしてですのっ?」
ボーイと、ユーキと、ナチアが叫んだ。
ヘレンは無言で、叫び声を受けとめた。
唯一叫ばなかったクリスが、その口を開いた。
「教官は…、初めっから、こうするつもりだったんだね…」
クリスの声は、静かな怒りに包まれていた。とめられなかった、という、自分自身に対する怒りも混ざっていた。
「あなたは、初めっから、こうするつもりだったんだっ!」
シンも、ボーイも、ユーキも、ナチアも。クリスの声に聞き入った。
少年は続けた。
「ウイルスを侵入させたのも、あなただ。ハッキングを行わせたのも、みんな…、みんな、あなたがやったんだっ!」
五人の沈黙。
そしてヘレンの、答えが返る。
「その通りです」
「…なぜ?」
呟くように尋ねたのは、ユーキである。
しかし、ヘレンからの回答は得られず、無言の教官に代わって答えたのは、クリスである。
「レベル・セブンの、消去のためなんだ」
声は苦渋に満ちていた。
消去を食いとめられなかったのは、他ならぬクリスである。少なくとも、本人はそう思っていた。
「この、マーベリックという名の新型ワープ機関の開発は、連邦最高機密だった。レベル・セブンだった。初めから、ヘブンのメモリーを消去する目的で、サイバー・ビーングを送り込んだんだっ」
クリスはいったん息を吐き、そして話を続けた。
「目論見どおり、メモリーは消去された。あとに残るのは、あのオルドープだった…。機密厳守が徹底される中、このワープ実験は行われたんだっ」
オルドープが本体データだと思っていた。だが、違った。
「おそらくは、シンさんとボーイさんを襲った人間は、教官には関係がない。二人が殺されちゃったら、作戦が遅れちゃうもの。でも、結果として二人は無事に生還して、さらに作戦は早められた。教官としては、願ったり叶ったりだった…」
そこまで言って口を閉ざしたクリスに、シンが話しかけてきた。
「クリス」
「なに、シンさん?」
「何故、教官は、そんな事をしたんだ?」
シンの質問は、質問ではなかった。確認であった。
「…もう、シンさんは気付いてるかな。結果を見れば一目瞭然だよね。ヘブンのデータが消え、最後のバック・アップであるオルドープが消滅した以上、今、この宇宙に、新型ワープ機関に関する情報は、どこにもなくなった。この、マーベリック本体を除いてね…」
ここまで聞いて、他の三人も気が付いた。
「まさか…」
「そんな…」
「本気ですの?」
ボーイと、ユーキと、ナチアが小さく呻いた。
「そう、そのまさかだよ」
三人の声に、クリスが静かに応える。
「連邦に残っているのは、このマーベリックだけ。そして教官は、もはや連邦に残ってはいられないことをしてしまった…」
クリスは、ゆっくりと、結論を告げた。
「教官は…、ヘレン・スタイナーは、このマーベリックをもって、銀河帝国に亡命するつもりなんだ」
重苦しい沈黙が、艦内を包んだ。
時間にすれば、僅か数秒。だが、果てしない時間。
この沈黙を破ったのは、ヘレンである。
「その通りです、クリス」
「どうしてっ? どうして、こんなことをっ?」
クリスの問いに、だが、ヘレンは答えなかった。
代わりに、一同に告げる。
「さぁ、少し遅れてしまったけれど、ワープ航法に移行しましょう」
機体は再び旋回を始め、帝国領へと、その船首を向けた。
<次回予告>
ヘレンとの通信を切られた五人は、必死の抵抗を試みた。
次回マーベリック
第四章 第二十五話「跳躍」
「幸せになる権利は、おまえにもあるってこと、忘れんな」




