第二十三話「思惑(後編)」(ボーイ)
ボーイは、目を覚ました。
大きな伸びをひとつして、レーダーを眺める。
おっ。もうこんなに離れたか。
感心。感心。
ボーイ達一行は、セリオス太陽系の最外周部まで到達していた。十を数える惑星が、すでに後方にあり、恒星セリオスの重力の影響も微弱なものとなっていた。
時計を見ると、すでに一同のヘブン出発から、一日と半分近くが経過している。
セリオス太陽系の最外周部には、交易ステーションが建造されており、ボーイ達のいた宇宙ステーション・ヘブンと、他の恒星間との中継地点となっている。人類の開発したワープ航法は、重力による干渉を受けるため、太陽系内部でのワープは不可能であった。その不備を補うための、交易ステーションである。太陽系の内側では通常航法で、恒星最外周部の交易ステーション間ではワープ航法で移動するというのが、この数百年変わらぬ、恒星間移動のルールであった。
やはり、そうか。
ボーイは納得した。
交易ステーションが、近くになかった。最外周部にある筈のそれは、ボーイの乗る二号機のレーダー上には、映っていない。
裏側にでたか。
ごくごく、単純な推理である。
三隻の試作戦闘機は、七機の先導艦に導かれて、交易ステーションの存在しない方向へと、移動してきたのであった。
となると、ワープ航法の実験か。
ボーイは確信した。
通常の演習や実験を行うのであれば、ヘブンやグリューンの周りで十分である。機密厳守を徹底するためであれば、他の宙域に移ることもありうるが、それならば、交易ステーションの存在する地点へと移動するべきだろう。太陽系内部ではできず、他の宙域に移動する必要もないこと。となれば、結論は絞られる。
ボーイは改めて、操縦席を見回してみる。
なるほどな。
多少のカモフラージュをされてはいるが、ワープに必要な計器類は、一通り揃っていた。
おそらくは、ワープ用のメイン・コンソールは、副操縦席に存在すると思われた。
クリスなら、乗船した瞬間に気が付いただろう。
ボーイとしては、通信を開いて話したい気分であったが、それは乗船の前から禁じられている。
なにも永遠に話せないってわけでも、ないんだしな。
ボーイはそう思った。
に、しても、だ。
もう一度、操縦席を見回してみる。
これほどまでに小型のワープ機関は、あまり見たことがない。おそらくは、三隻をくっつけて初めて完成形なのであろうが、それでも十分に小さい。
小型ワープ機関の開発実験か?
ボーイは推理をはじめた。暇つぶしにはなるだろう、という、軽い考えのもとである。
小型のワープ機関…。
いや、違うな。
それだけじゃあ、ないだろう。
現段階で、ここまでコンパクトになっている。これ以上小さくしても、それほどのメリットはない。逆に、ここまでの大きさなら、今までだって、やれないことではなかった筈。
では、なんだ?
その後、しばらく考えていたボーイであったが、正解らしき答えは、見つけることができなかった。
ま、あと少しで、それも分かるか。ここまでは無事にこれて何よりさ。
さすがに今度は、宇宙海賊も出ないし…。
ボーイの表情が曇った。
宇宙海賊が出ないのは当たり前である。何しろ、二ヶ月ほど前、ボーイ達の乗った民間船を襲ったあと、その潜伏場所が特定され、セリオス太陽系内にいた宇宙海賊は、根絶やしにされてしまったのであるから。
ちょっと、まて。
根絶やしになったから、今が安全なのか?
今を安全にするために、根絶やしにしたのか?
ボーイが小さく首を捻った、その時。
「各機、レーダーを確認」
久しぶりの教官の声が、ヘルメットの内側に響いた。
小さく息を吐いてから、指示どおりレーダーを確認すると。これまでになかった光点が、一つ増えていた。
いつのまに!
ボーイは驚愕した。おそらくは、コン・シールドをかけてレーダーから隠れていたのであろうが、これほど強力で巧妙なコン・シールドを見たことはない。
「あれが、我々の第一の拠点となる、監察衛星・オルドープです」
衛星、とはいっても、周りに従うべき惑星は存在しなかった。移動式の宇宙ステーション、と表現した方がいいような建造物である。
「これより、先導の七機は、オルドープに帰還します。新たな目標を各機に送りますので、ポイントまで移動しなさい」
いったい、何をするつもりなんだ、教官。
ボーイは真剣に悩みはじめた。そしてすぐに、そんな自分を笑いとばす。
おいおい、おれは悩むのが仕事じゃない筈だぜ。
おれは、自分の任務をきっかりこなしてきた。あとは知らんさ。
悩むのは、他の四人の仕事さ。
なあ、クリス。
おまえなら真実を見抜けるのか?
それとも…、全部知っていたのか?
続く




