第二十三話「思惑(後編)」(ユーキ)
どうしよう。
ユーキは、悩んでいた。
別に、簡易排泄物処理装置の使い方で悩んでいた訳ではない。
すでにヘブン出発から五時間が経過していた。
その航行の間中、至って少女らしいことで、思い悩んでいたのである。
シンが、微笑んでくれた。
自分が副操縦席に行こうとした時、微笑んでくれた。
シンのあんな顔は見たことがない。
どうしたのかな。
どうしたのかな?
どうしようかな…。
なにか、あったのかな?
それとも、普通に微笑んだだけなのかな?
ううんっ。
シンが微笑むこと自体、そんなに多いことじゃないし、いつもの笑みとは、少しちがっていた。と、思う。
だって、あんなタイミングで笑うなんて、普通ないもの。あれは特別に、笑いかけてくれたんだ。たぶん、そうなんだ。きっと。おそらく。
どうしたら、いいのかな。
どうすれば、いいのかな。
なにか、言ってくれるのを待つべきなのかな?
それともこっちから、なにか言わなきゃならないのかな?
やだな。
こんなことなら学校で、もっと聞いておけばよかった。
好きな人ができたら、どうするのかって…。
…好きな、人?
好きな人、よね、シンは。
思い出すだけでドキドキして、目をつむっても顔が浮かんで、会っていないと不安になって、会ったら、やっぱりドキドキして…。
これって、好きってことよね?
恋してる…のよね?
ちがうのかな。ちがわないのかな。
…ばかだな、わたし。
なにも知らない。
こんなに、ばかな女、シンは好きになってくれるのかな?
シンに、好きになってもらいたいな。
どうしたら、いいのかな。
キスとかすれば、いいのかな。
………。
ユーキは想像して、そして、頬を赤くして俯いた。
…やっぱり、ばかだわ、わたしって。
キスって、好きあってからするものなのに。
…でも…。
教官は、ボーイとキス、したのよね。
あれは、してもよかったのかな。
いやじゃなかったのかな。
それとも、ほんとは好きだから、したのかな。
でもあのあと、次に続かなかったって、ボーイはお酒飲んでたし。
教官は社内恋愛禁止とか? でもそれだったら、デートそのもの了解しないか。
駆け引きなのかな。
教官上手そうだし。
やっぱり、女も努力しないと、いけないよね。
十分くらい、シンと、こう…。
………。
や、やだ、わたしって。なに考えてるんだろ。
…でも。やっぱり。なんか…。
シンとは、キス、したいな。その他にも、いろいろ…。
………。
やだ、わたし、大切なこと知らない。デートって、どうするの? どう誘うの? どこに行くの? 何を話せばいいの?
普通にしてればいいの?
普通ってなに?
いつもどおり?
できるわけないじゃい。彼のこと普通になんか思ってないんだから。
もうやだ。こんなことなら、みんなにもっと聞いておくんだった。
好きな人とは、どうやって仲良くなるのかって…。
………。
ユーキの思考が、堂々巡りをしている間に。ユーキの身体が、変化を示していた。
…どうするのかな、これ。
手元に、簡易排泄物処理装置のホースを引きずり出した。出したはいいが、その使い方が分からなかった。通常のものとは、少し違う。シンのことを考えていたせいで、教官の説明を、あまりよく聞かなかった。
ガイドを見ようにも、コンソールへの接触は禁じられている。だから説明を聞けと言われてたのに。
眺めること数分。ユーキは外見から推測して、おおよその使い方を理解した。
それにしても太いな、このホース。
こんなに太くなくても、いいのに。
あ、それとも、ボーイみたいに大きい人には、必要なのかな。
………なにが?
や、やだ。使いたくなくなってきちゃった。でも、使いたいし。
まだ、目的地には着かないのかな。
使いたい。でも、やだ。
ああ…。
どうしよう。
ユーキは、悩んでいた。
続く




