第二十二話「思惑(前編)」(ナチアスチア)
ナチアは、緊張していた。
ほほっ。
少しだけ、可笑しかった。緊張している自分が滑稽だった。
わたくしともあろう者が、このざまはなんですの?
自嘲する。
実機に乗って宇宙空間に出る時、いつもナチアは緊張していた。何度も演習を重ねて、少しずつ薄らいではきていたが。
最初の時よりは、マシになりましたわ。
自分に言い聞かせる。
初めて実機演習を行った時は、取り乱してしまった。ボディ・スーツも体術も、クラーギナの力すら通用しない空間。生きているのが当たり前という、これまでの常識が通じない時間。分かっていたつもりが分かっていなかった。
二度と、ああはなりたくなかった。だから、実機演習の時は、いつも真剣であった。大好きな宇宙を嫌いになるなど、あってはならない。
この作戦も、あと僅か。必ず成功させてみせますわよ。
…ですが。それにしても。
さすがですわね。
ナチアは、操縦席を見回す。
視界のほとんどを覆い尽くすメイン・スクリーン。体を取り囲む大型のコンソール。常人では扱いきれないほどの計器。天才にしか心を許さない制御シート。
居心地は悪くなかった。
さすが、クラーギナ財団特製のコクピットですわ。
ほんの少しですけど、見直しましたわよ、お祖父さま。
さぁ、あとは、マーベリック博士の遺産を動かすだけですわ。
「ポイント到着。全機レーダー展開」
教官の声が、通信器から聞こえた。
指示どおりにレーダーを展開すると、三つの光点が示された。その内の一機は、ナチアの乗る三号機である。
さらに観測範囲を広げると、新たな光点が七つ現われる。
なんですの、これは?
ナチアの心音が、その速さを上げる。
敵? 宇宙海賊?
まさか、そんな筈ありませんわ。
でも。まさか。
「レーダーに七つの機影を確認した筈です」
ええ、しましたわ。
「彼らは我々を先導してくれます。目標を右端の機体に合わせ、ポイントを設定しなさい」
先導? ポイント設定?
言われれば、やってさしあげますけど、ですけど、何をするつもりですの?
まさか、このまま、なんて、ありませんわよね?
「我々はこれより、長時間の移動に移ります」
まさか、本当ですの?
「各機のポイント設定をこちらでも確認しました。これより先は、私がコントロールを行います。各機、一切の操縦は不要です。指示のあるまで、コンソールへの接触を禁じます」
この船に乗るのは初めて。
いくらなんでも…ですわよね?
「それではこれより、あなた達が今回の航行中、唯一扱う事のできる機器の取り扱いについて、説明を行います」
説明ですって?
いまさら?
それよりも、これから、本当に行くんですの?
「この機器は、若干特殊であり、今までの訓練で扱っていません。簡単ではありますが、説明を良く聞く様に」
え?
今までの訓練で、扱わなかった物があると言いますの?
「各機・各席のスクリーンに、ガイドを送ります」
ちょっ、ちょっと、これっ!
「つまりそれだけ、長い航行になる、という事です」
ちょっと、お待ちなさい、許しませんわよっ。
「各自、モニターに注目」
嫌ですわ…。
「これより、簡易排泄物処理装置の説明を行います」
助けなさい、ユーキぃっ!
<次回予告>
ユーキは、悩んでいた。
別に、簡易排泄物処理装置の使い方で悩んでいた訳ではない。
次回マーベリック
第四章 第二十三話「思惑(後編)」
こんなことなら学校で、もっと聞いておけばよかった。




