第二十二話「思惑(前編)」(ヘレン)
ヘレンは、後悔していた。
だからといって、やめるつもりはなかった。
これからも後悔し続けるのであろう。
仕方のないことだと、割り切っていた。
「全機発進。速度は四千で固定。衛星リオの軌道上に最初の目標を設定。ポイントはこれから送ります」
ほとんど無意識で指示をだす自分が、信じられなかった。
何だろう?
以前にも、同じようなことがあった気がした。
それも当たり前か。
自分は、自分である。同じ自分しか生きていない。同じ時間しか生きていない。同じ空間でしか生きていない。当たり前である。
しかし。
それももう終わりを告げる。
目の前には、ヘレンの嫌いな宇宙が広がっている。
三隻の宇宙船は、すでに宇宙ステーション・ヘブンを離れた。
攻撃はない。不審な船もない。ここまでは順調である。
あと少しで設定ポイントに着く。そうすれば、彼らがいる。彼らがいれば、とりあえずは安全である。
だが、まだだ。まだ油断してはならない。シンとボーイを襲ってきたような輩が出てくるかもしれない。それは決して、望ましいことではない。
この作戦には、人類の未来がかかっているのだ。
決して大袈裟な表現ではない。“マーベリック”こそが、連邦と帝国の、百年に渡る戦争を終結させる決め手となるのだ。失敗は許されない。邪魔をされてはならないのだ。
ましてや、自分の人生もかかっている。
今まで止まっていた運命の車輪を、自らの手で動かすのだ。
誰にも、邪魔はさせない。
「速度を一万へ変更。その後固定」
思考の間でも、声はでる。
不思議だ。自分は、止まっている筈なのに。
…あの五人?
あの五人に会ってから、自分は変わり始めている?
そうかもしれない。
けれど、そうだとすれば、もう少し早く会いたかった。そうすれば、この計画も必要なかった。
…ふふっ。
おかしな話ですね。この計画に必要だから、呼び寄せたのに。
ヘレンの頭の中に、五人の部下の顔が次々と浮かぶ。
シン、ボーイ、ユーキ、ナチア、そしてクリス。
邪魔をするのは、誰?
恐いのはシン。けれど、シンは作戦も目的も知らない。
ではボーイ? …いえ、ボーイはナイト。私のカード。そうですね、ボーイ?
ユーキ。恐くはない。けれど、最後の鍵を握るのは、この子かもしれない。
ナチア。危険。最も知り、最も関わっている女。気を付けなくてはならない。
最後にクリス。道具。そう考えていた。だから、謝った。ごめんなさい。
邪魔をするのは、誰?
作戦と、実験と、計画と、目的の、邪魔をするのは誰?
やっぱりナチア?
クラーギナ財団の娘?
お願い、みんな。邪魔はしないで。
続く




