第二十二話「思惑(前編)」(シン)
シンは、一号機に乗り込む時に、気が付いた。
この機体、三隻が合体するな。
横を見ると、どうやらユーキも、同じことに思い至ったようであった。他のメンバーも同様に気付いたであろう。
搭乗口は機体の下部にあり、頂点から三つに分けた円錐の、二つの切断面に一つずつ存在していた。そしてそれらの位置が、三隻とも等しいように見えた。接続用と思われる機構が付いていたことも、その裏付けになる。また、事前に言い渡された低重力場の発生源が、円錐中心部分近くに存在していることも不自然であった。一隻ごとの重心を考えるならば、もっと艦の中心に寄って設置されるべきものである。
搭乗口を合わせるように三隻を接続すると、ちょうど一つの円錐ができるであろう。
実際に搭乗口をくぐり、低重力の通路を進んでいくと、その考えは確信に変わる。
坂道を描く曲面の通路を歩くと、機体のほぼ中心に十字路があり、その内の二方向が、二つの搭乗口に続いていた。仮に三隻を接続した場合、その内側で、円状に通路が繋がることになる。
シン自身は一隻しか見ていないので断定はできないが、間違いはないように思われた。
何故、こんな真似をした?
操縦席のある船首方向へと十字路を曲がりながら、考えを巡らす。
三隻を合わせたら、大型の戦闘機というより、小型の駆逐艦に近い。
しかし、ただの駆逐艦ならば、初めから一つとして造ればいい。
何故、三つに分けた?
カモフラージュの為なのか?
シンの頭に、ひとつの単語が浮かび上がった。
レベル・セブン。
内惑星連邦の、最高機密。
ウイルスとハッカーから護るために、ヘブンのメモリーを消去しなければならなかったほどの重要機密。
そこまで考えた時、通路の行き止まりまで来た。
「じゃあ、わたし、こっちみたいだから」
振り返ると、ユーキがいる。
可愛らしい少女である。
宇宙服に包まれた細長い指が、天井に向けられていた。
天井には、大きな穴が開いており、それは垂直に設置された通路となっていた。
本来、無重力の宇宙には上も下も存在しない。主に操縦席における足元方向の壁を「床」、或いは「下」と呼んだ場合の、便宜的な方向感覚が存在するのみである。しかし現在、艦内は低重力場に包まれており、多少不確かではあるが、天地の方向感覚が存在した。それによると、ユーキの向かう副操縦席は、通路の真上にあるらしかった。
「俺は、ここだ」
シンは、通路の行き止まりを親指で示した。この突き当たりの壁が、操縦席のドアであった。
「じゃあ、また、あとで」
「ああ」
まだ何か話したげなユーキであったが、床を蹴り、垂直方向に移動を始める。
…何だ?
違和感が生まれる。
重力の僅かな抵抗を受けながら、ユーキの体が天井の穴に呑み込まれていく。
何だ?
ユーキの顔が、首が、胸が、垂直に開いた通路へと消えていく。
「ユーキ」
思わず呼びとめていた。
「なに?」
空中で器用に回転した少女が、頭を下にして、垂直な通路から顔を出す。
抱きしめたい。
唐突に思った。
いや、違う。護りたいのだ。
思考があちこちに飛躍する。
このままでは危ない。それだけは分かった。
ユーキは、ここにいてはいけない。
レベル・セブン。
ウイルス。ハッカー。人間爆弾。捕縛用ネット・シューター。メモリー消去。
いくつもの単語が、キー・ワードのように頭に浮かぶ。
それらが、繋がりそうで繋がらない。必要なものと不必要なものが区別できない。あと、いくつかの単語が足りない。
「どうしたの?」
突然、ユーキの声が響いた。
いや、突然ではない。シンが呼んだのである。
危険。それは確かな実感。彼女を逃がしたい。だが。
「いや、何でもない」
今の自分にできる、精一杯の表情を作る。
「うん、じゃあ、またあとで…」
嬉しそうな笑顔をみせて、今度こそ、ユーキの姿が天井へと消えていく。
シンの心の中で、すでに結論はでていた。
危険であることは、最初から分かっていた筈。
ならば、護ろう。
ユーキも、ナチアも、クリスも、ボーイも、護って通そう。
そう考えて、身を翻し。そこで、微かな疑問が浮かんだ。
…何故、教官の名前が浮かばなかった?
俺にとって、護るべき存在ではない、という事か?
それとも。
それとも「ヘレン・スタイナー」がキー・ワードだからか?
続く




