第二十一話「憶測」(2)
爆弾騒ぎから五日後。
依然、事件の詳細は不明のままであったが、襲われた当人達は、もはや過去のことと割り切って考えていた。何より、死んでしまった襲撃犯達よりも興味を引くものが、今、彼らの目の前にあった。
真空・無重力のスペース・ポートに浮かぶ、三隻の宇宙船。
時に、宇宙歴七百九十八年五月二十九日。六人の前に、連邦軍最新鋭試作戦闘機の勇姿があった。
白色の機体は、細長い円錐を、頂点から三分割したような形をしていた。微妙に形状が異なり、攻撃兵装や推進機関に違いがあるようであった。以前聞いた説明によると、一号機は攻撃力、二号機は機動力、三号機は防御力重視のセッティングが、各々なされている筈である。三号機以外には、白い機体に太いラインが入っており、一号機には赤いラインが、二号機には青いラインが、それぞれ船首から船尾にかけて描かれていた。
センスのない配色ですわね。
ナチアは、そう思った。
シンプルが一番ってやつなのかな?
クリスは、そう思った。
六人に、六通りの印象を与えた配色ではあったが、少なくとも機体の性能には、あまり関係のないことであった。外見にも工夫を凝らすのが通常ではあるが、それが目の前の新型戦闘機の本領とは、誰も思っていなかった。
「それではこれより、搭乗の説明を行います」
ヘレンが一同を振り向いた。
この時六人は、支給された新しい宇宙服を着込んでおり、会話は通信器越しに行われていた。また、六人の宇宙服は黒を基調としながらも、一部に色が付けられており、六人とも、その配色が異なっていた。シンは赤、ボーイが青、ユーキがピンク、ナチアが白金、クリスが緑、そしてヘレンは紫である。かつて、教官が各自の好みの色を聞いたことがある。完全ではないが、それが反映されているようであった。いずれにせよ、各人の識別がしやすくなったのは確かである。
上官の声を受けて、五人は姿勢を正し、次の言葉を待った。
ヘレンの秘密厳守は徹底されており、このポートに入るまで、ほとんど説明はなかった。
「宇宙船マーベリックは、各機とも複座タイプです。一号機の操縦席にはシン。同副操縦席にはユーキが搭乗」
「了解」
「了解」
よかった。シンと一緒。
ユーキは胸を撫で下ろした。
「二号機の操縦席にはボーイ。同副操縦席には私が搭乗します」
「了解」
答えるボーイの声には、喜びが混ざっていた。
おれの気持ちが伝わったか?
あくまで能天気に考えを巡らせる。
「三号機の操縦席にはナチア。同副操縦席にはクリスが搭乗」
「了解」
「了解」
最後に、ナチアとクリスが答える。
よろしくですわ、クリス。
ナチアさん、よろしくお願いします。
軽く目を合わせて、挨拶を交わす。
ヘレンの説明は続く。
「今回の演習では、基本的に操縦席のみを使用します。シン、ボーイ、ナチアの三人は細心の注意を払い、私の指示に従う事」
呼ばれた三人の返事を確認し、ヘレンは、残り二人の方に視線を動かす。
「副操縦席のユーキとクリスは、基本的に計器に触れる事を許しません。また、触っても動作しない様に設定されています」
この言葉を聞いて、落ち込んだのはクリスである。好奇心の固まりのようなクリスとしては、何ともやるせない任務であった。だが、そんな少年を、次の言葉が救う。
「ただし、見るのはもちろん自由です。内惑星連邦が、その威信をかけて建造した戦闘機の神髄は、各機の副操縦席にあります。自分達のその目で、確かめてきなさい」
クリスが目を輝かせ、ヘレンは小さく頷く。
「各機の搭乗口は、下部の中央に二個所ありますが、今回の搭乗では、右舷の物のみを使用します。内部の構造は機体毎に差があり、一号機の操縦席及び副操縦席は機体前方に、二号機のそれは機体中央に、三号機は機体後部に存在します。搭乗口からは、いくらかの距離がありますが、途中の機器等に触る事は厳禁とし、壁面への接触は最低限のものとなる様、注意を払いなさい」
やはり、ただの戦闘機ではない、という事か。
シンは確信した。ただの新型戦闘機が、ここまで厳重な警戒を必要とする理由がない。そもそも、搭乗口から操縦席までの間を、通路で繋ぐ構造が異常である。いくら大きいとはいっても、一般的な戦闘機に通路など存在しない。
「また、各機共、大型戦艦クラスの重力制御システムを中核としています。静止状態においても、艦内、及び艦周辺に、低重力場が発生しています」
ボーイの唇から、微かな口笛が漏れる。
確かに、重力制御システムは、それ自体が巨大な質量体である。稼動状態にかかわらず、重力場を形成することは周知の事実であった。しかし、通常のそれは、あくまでも微弱である。艦周辺にまで重力場が及ぶなど、それこそ空母や大型戦艦並みである。
「各自、操縦席へ到着した後は、ドアをロック。私の指示があるまで待機するものとし、私以外のメンバーとの個別通信を禁止します」
ヘレンはゆっくりと、一同を見まわす。
ずいぶん、おおげさだな。
ボーイは、心の中で苦笑した。目の前では、続けて上官が諸注意事項を伝えている。
…そういや昔、似たようなことがあったな。
ぼんやりと、戦闘機乗り時代を思いだす。
ボーイの記憶によると、出撃するたびに、同じように色々と声をかけてきた上官がいた。めずらしくボーイが、好印象をもった上官であった。
あの上官は、死んじまったけどな。
「それでは、各自、搭乗開始」
ヘレンの凛とした声が響く。
あんたは、死なせねぇよ。
ボーイは心の中で、呟いた。
<次回予告>
シンは、一号機に乗り込む時に、気が付いた。
横を見ると、どうやらユーキも、同じことに思い至ったようであった。
次回マーベリック
第四章 第二十二話「思惑(前編)」
ちょっと、お待ちなさい、許しませんわよっ。




