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第二十話「対傭兵部隊戦」

 疾走を続けたシンとボーイの眼前に、広大な空間が現われた。

 メンテナンス・エリアを駆け抜け、途中、大勢の敵を倒しながら、ここに至った。巨大な柱が中央に横たわり、その数倍の空間が周囲を包み込む。ここが宇宙ステーションの中心地であり。すべての重力は、支柱へと収束する。

「ったく。なんてところに構えてやがる」

 ボーイが舌打ちする。

 この時二人は、壁面に設けられた剥き出しの狭い通路にいた。足元の支柱までは、五十メートル以上の高低差。見上げれば天井は遠く、さらに水平方向に目を向ければ、空間の一部は視界の消失点を越える。

 シン達を獲物として追ってきた連中は、扇状のメンテナンス・エリアを、狩場に選んだ。入り組んだ場所で効率的に攻撃を組み立てるには、どこかに司令塔を建てる必要があり、選ばれたのが、扇の支点である。

 広大な空間に遮蔽物はなく、長距離用の武装でもなければ、簡単に攻略できない。

 さらには、光学迷彩を利用しており、姿を隠蔽している。

「さて。どうやるか…」

 見えないことは想定済みである。人の目が見えなくても、場所を絞ればセンサーで発見することはできる。呟きながら、懐からいくつかの武器、爆弾を取り出す。

「…いつ、用意したんだ?」

 今度はシンが聞く番であった。

「いや、なに。敵が持ってたやつをちょいと、な」

 満面の笑みを浮かべるボーイである。

 通常、武器にはセキュリティ・ロックがかかっており、敵に奪われても使用はできない。そのロックを解除できるだけの知識と技術を、ボーイは備えていた。時間さえかければ、さらに多くの武器を奪い、ロックを解除できたかもしれない。

 その後、約二十秒。作戦を立てた二人は、通路の手すりからその身を晒した。

 当然、敵にも気付かれたはず。

「ツー、ワンっ」

 ボーイの声と同時に、二人は床を蹴り、手すりを乗り越えた。

 ヘブン中の重力がここに集約している。高重力の中、下方向に加速し、あっという間に支柱表面へと達する。

 ずどん。

 重力に圧縮された空気の中、ボーイの着地音が響く。硬質な床に一切の凹みは付かないが、クレーターができても不思議はないと錯覚させるほどの勢い。

 たたたん。

 続いて、シンの着地。落下途中で壁面に手をかけ、速度を調整していた。そのまま前方に一回転してから立ち上がる。

 両者共に、卓越した身体能力と、高性能のボディ・スーツがあればこそのパフォーマンス。立ち上がったシンの横を、先にスタートを切ったボーイが駆け抜ける。続いてシンも駆け出した。

 前方の空間が歪み、敵の本陣が姿を見せた。無造作にいくつかの机が並び、モニターの灯りが周辺を照らす。光学迷彩を解除した陣の中央に、大型マシンガンの姿が見える。

 シンはジクザグに、ボーイは一直線に、敵本陣を目指す。その距離、およそ二百メートル。

 敵の攻撃が始まる。

 ブラック・レーザーによる掃射。

 躱し続けるシンに対し、ボーイはその大半を受け止めた。メンテナンス・エリアから引き剥がしてきた壁板を盾に、半分までつめる。

 残り約百メートル。

 遂に、マシンガンの威力に、ボーイの足が止まる。

 シンがボーイの背面にまわる。現状で接近できるのは、ここまで。敵の攻撃が集中する。

 ひゅっ。

 崩れかける壁板の影から、シンが小さな物体を敵本陣に放り込んだ。

 限定衝撃弾。

 主に市街地戦闘で使用される、範囲限定の超振動破壊爆弾。放物線を描く、その数は四。

 マシンガンが弾幕を張るが、間に合わない。本陣近くの空中で爆発した。

 衝撃エリアは半径約七メートル。不可視の円内にある、すべての形あるものが、その姿を失った。一瞬の出来事であった。


 シン達のとった作戦は、単純なものであった。

 場所は広大で遮蔽物が無い。とはいえ、遠方からの攻撃手段は不足している。では、接近するしかない。できるだけ接近して、そのあとは、小細工なしに、力で吹き飛ばす。

 もう少し、距離を縮めることができたなら、この攻撃だけで終わったかもしれない。

 空中で爆発した衝撃弾の威力に、敵の攻撃が怯んだ。何より、生き残ったマシンガンも、その銃口が上方に向いている。ボーイの後ろからシンが飛び出し、走りながら、床面すれすれに最後の限定衝撃弾を投げ込んだ。

 結果、敵本陣の大半が消滅した。

 残るは、あと僅か。

 遂に、目の前にやってきたシンとボーイを前にして、本陣にいた男達は敗北を覚悟した。


「ひいぃっ!」

 奇声を上げて男達が逃げ出した。

 その姿を見て、シンとボーイも気が付いた。

 目の前では、敵のリーダーと思わしき人物が、自害し、静かに崩れ落ちるところであった。

「まずいっ」

 ボーイが叫び、地を蹴った。同時にシンも疾走を始める。

 人間爆弾。

 たった今、自ら倒れた男は、体の中に爆弾を埋め込んでいた。

 戻って確かめる時間はない。必死に逃走する男達を見る限りにおいて、爆弾の存在は明らかであり、その威力は凄まじいものと予測できた。全員がシン達が降下してきた壁面を目指している。つまり、身を隠すものがないと防げないということ。

 僅かに遅れて走りだした二人であったが、すぐに男達を追い抜いた。

 追い抜く瞬間、男達の表情を確認する。

 まずい。

 ボーイの中の焦りが増大する。

 死相。そう呼ばれるものが実在することを、ボーイは知っていた。そして今、彼らの顔が、その死相であった。

 男達を追い抜き、走り続ける。隣にはシンの姿があったが、さすがに今回は話をする余裕はない。

 広い空間に出たのが裏目にでた。このままでは、爆発が直撃する。前方に壁面と、内部に続くドアがあった。すぐ目の前に迫ったが、やけに遠くに見えた。

 チャンスはある。

 自分に言い聞かせた。

「うわぁあああっ…」

 後方で叫び声が上がった。

 足が地を蹴った。前にではなく、横に。

「!」

 シンの体を覆いながら地に伏せた。

 二人の体を、白い光が包み込んでいった。

<次回予告>


 ユーキが声をかけてきた。

 メンテナンス・エリアの騒動から、明けて翌日のことである。

 シンとしては、冷たく答えたつもりはなかったが。結果として、ユーキにはそう受け取られたらしかった。


次回マーベリック

第四章 第二十一話「憶測」


「現時点で、それに答える権利は、私には有りません」

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