番外話「そこに至る過程」(2)
宇宙空間に、一隻の宇宙船が浮かんでいた。
宇宙船の後方には、小型の宇宙ステーションが存在した。そのさらに後方には、恒星の輝きが、ぽつりと浮かんでいた。
恒星の名はセリオスと言い、その第三惑星の名はグリューンと呼ばれていた。グリューンの衛星軌道上には、巨大宇宙ステーション・ヘブンが存在したが、その姿は、あまりにも小さく、もはや視認することはできなかった。
セリオス太陽系の最外周部。
それが、宇宙船の浮かぶ、宇宙空間の呼び名であった。
「どういうことなの、教官?」
宇宙船の中では、通信回線を通した少年の声が、自らの上官を呼んでいた。
少年の声は高いものであった。声変わりが十分でなかったためか、緊張のためか、或いはその両方であった。
「見ての通りです。本艦は旋回しています」
落ち着いた女の声が答えたとおり、宇宙船は、ゆっくりと旋回を始めていた。
「どーして?」
苛立ちを募らせた声が、通信器を通して投げかけられる。
「どうしたんだ、クリス?」
太い声が会話に入っていく。
「ボーイさん、この旋回はおかしいんだっ」
「おかしい?」
「うん、そうなんだ、だからっ…」
「まあ、落ち着け、クリス。教官、何をするのか、説明を頂けませんか?」
問いかけに答えが返る前に、別の声が割り込んできた。
「シンっ、メイン・レーザーの出力が上がっているっ」
これまでの会話よりも、大幅に緊張感の高い声であった。
「了解した。そちらからのコントロールはできるか?」
男の声が聞き返す。
「だめ、できない。コントロールは完全に失われていますっ」
「了解した。ユーキは、そのまま計器を監視」
「はい…」
少しだけ平静を取り戻した少女の声を確認して、男の声が、上官に問いを発する。
「教官。どういう事ですか?」
「見ていれば、分かります」
答えは簡略であったが、男が望むものではなかった。仕方なく、別の名を呼ぶ。
「…ナチア?」
「わかりませんわね。こんなことは予定にない筈…」
呼ばれ、答えた少女の声に、少年の声が重なる。緊迫感で、爆発しそうな声であった。
「シンさん、機体の旋回がとまったよっ」
機体は旋回を終え、その船首を、小型の宇宙ステーションに向けていた。
「少尉、前方、軸線上に監察衛星を確認しましたわ…。このまま主砲を発射したら…、ユーキ?」
「だめなのナチアっ。こっちからじゃ全然コントロールできないっ。シンっ、エネルギーが急速に上昇っ。前方監察衛星にフォーカスが合いましたっ」
答える少女の声は、最後の方が叫び声に近くなっていた。
「教官、どういう事か、答えて頂きたい」
「どういうつもりです、教官っ?」
二人の男の声が、返答を引きずり出した。
「シン、ボーイ、ユーキ、ナチア、そしてクリス」
よく通る声が、クルーの名を呼んだ。
呼ばれた五人は、黙って、その続きを待った。
「あなた達を巻き込んでしまった事を、申し訳なく思っています」
一瞬の沈黙。そして。
「そんな答えが聞きたいわけじゃねえっ」
太い声が艦内に響いた。
男が続きを言うよりも早く。女が答えを発するよりも早く。
少女の叫び声が響いた。
「だめっ。主砲が発射されますっ!」
宇宙船の前方に、青白い光の輪が出現した。
その輪の中央を突き抜けるようにして。
光の矢が、放たれた。
続く