第十五話「暴露」
ミーティング・ルームに戻った五人は、ヘレンからの別命を待ち続けた。
五分待ち、十分待った。
インター・ホンは鳴らなかった。
十五分待ち、二十分待った。
新たな警報こそ鳴らなかったものの、ヘレンからの連絡は入ってこなかった。
途中、中央管制室にハッキングをかけて様子を知ろう、という意見もでたが、さすがに実行に移すのはためらわれた。結局一同は、ヘレンからの連絡を待つしかなかったのである。
そのような状態が続き、ミーティング・ルームに戻ってから三十分も過ぎる頃には、五人ともすっかり待つのに飽きていた。
「えー、それではこれより、第一回・恒例マーベリック大暴露大会を行いたいと思います」
ボーイが立ち上がった。じつに、緊張感の持続しない人間であった。
「…なんですの、それは?」
ナチアが辟易とした声をだす。
「聞いてなかったのか。だから第一回・恒例マーベリック…」
「だからそれは、なんなんですの?」
「その名のとおり、みんなで自分の過去を暴露し合う、という大会だが…」
何を当たり前のことを、といった顔でボーイが答える。
「なぜ、今、わたくし達が、そんなことを、しなければならなりませんの?」
「暇だからだ」
即答するボーイに、首を振るナチア。
処置なしですわ。
ナチアの声が、他の三人には聞こえるようであった。
「こないだは、早々にクリスが寝ちまったし。おまえらは、いいよな?」
ボーイが、三人に顔を向ける。
シンは軽く肩をすくませ、了承の意を表わす。
「気を使わせて、すみません。変なことじゃなかったら、ぼくもいいです」
クリスが答える。
「ユーキは、どうだ?」
ボーイの視線を受けて、ユーキは困ったような表情をつくる。表情だけではなく、実際に困ってしまう。
ちらり、と横を見ると、涼しげな顔のチーム・メイトがいる。
「…ほんとうに、へんなことじゃ、なければ」
控えめに返事をする。
ユーキの回答を受け、嬉しそうなボーイが、ナチアに視線を戻す。
「ナチア」
「なんですの?」
「やろうぜ」
「嫌ですわ」
「どうしても?」
「嫌ですわ」
やりたければ、四人でやればよろしいですわ。
そう言うよりも早く、ボーイの一言が、ナチアに突き刺さる。
「貸しがあったな?」
ぐっ。
くるべきものが、きてしまった。
「第十三小隊から、助けてやったよな?」
仕方がない。
いつかは言われると思っていたし、ナチアとしても、借りを作ったままなのは望むところではなかった。
クラーギナ財団の一人娘である自分が作った借りを、まさか、こんなくだらないことで返すとは思わなかったが。
「これで、貸し借りはなしですわよっ」
こうしてボーイの提案は通り、一回目なのに、何故か「恒例」の名前の付けられた大会が始まった。
何を暴露するのかは、最年少者であるクリスが決めることになった。
「わかっていますわよね、クリス」
「わかってるよな、クリス」
ナチアとボーイがプレッシャーをかける中、少年は、じゃあ、と口を開いた。
「ファースト・キスの体験談、とか…」
本人としては、誰であってもそれなりに話せるであろう、ほどよい落としどころ。と、考えた。
「クリスったら…」
「つまらないことを…」
少女達は、嫌そうな顔をした。
「まあまあ二人とも。幼い少年を責めても、仕方がないだろう」
そんな少女達を見て、ボーイが嬉しそうな顔をしていた。
「じゃ、まず、提案したクリスからな」
ボーイが笑いながら、提案する。「次はおれ、あとは階級、年齢順で…、シン、ユーキ、ナチアって、それでいいよな?」
これには、誰からも積極的な反対はなかった。
一番手のクリスが、いまだ恨めしそうな二人の視線を受けながら、自分の経験談を話しはじめた。
「えっと、じゃあ…。その…。ぼくのファースト・キスは、ここに来る一週間前でした」
照れながら話すクリスに、笑顔のボーイが質問する。
「お相手は?」
「幼年学校の時の、教生の、先生です」
「年上かぁっ」
「は、はい」
いつのまにか、ユーキも興味津々になっていく。
「で、どうだった?」
「えと。興奮してて、あまり…」
「覚えてない?」
「はい。でも…。気持ち、よかったです…」
「きっかけは、どんなだったの?」
ユーキが問いかける。
ますます恥ずかしそうにしながら、クリスが説明する。
「えっ、えっと。もともと、その先生が、初恋の人だったんです」
「初恋の人っ!」
大袈裟に声をあげるボーイを、ユーキとナチアが睨みつける。
静かに、ボーイ。
うるさいですわよ。
無言の圧力を受け、ボーイは肩をすくめる。
そんな三人を見ながらクリスが話を再開する。
「今回、教官に呼ばれて、ここに来ることを決めたんですけど、やっぱり、軍隊だし、その…、ある程度の危険はあるだろうし、それで、あの、その…」
「初恋の人に、会いに行ったのね?」
詰まったクリスを、ユーキが促す。
「は、はい。そうです…」
「いい話ねぇ」
「可愛らしいですわね」
何やら、うっとりとするユーキと、納得顔のナチアであった。
「じゃあ、次はボーイの番ね」
ユーキに言われて、ボーイは肩をすくめる。
ボーイとしては、もっと話を広げたかったのであるが、どうやら二人の少女は、それを許すつもりはないようであった。
「おれは、覚えていない」
ボーイの答えに、一瞬呆然とした少女達であったが、すぐにナチアが言葉を発した。
「自分から言い出したことを、ずるいですわねっ」
「本当だから、仕方ないだろう」
「いい年をして、クリスの真似ですの?」
「本当だって。物心がついた時には、手当たり次第、近くの女にしまくってたからなぁ…。どれが最初と言われても…」
ボーイが、遠いものを見る目をする。
「…呆れますわね…」
「これもまた、いい思い出だな」
「………」
どうやら、嘘はないのだと理解して、ナチアは追求を諦めた。ユーキも呆れ顔でボーイを眺めていた。
「すごいですねぇ、ボーイさん」
目を輝かすクリスが、ユーキとナチアには信じられなかった。何がすごいのか分からない。男って、馬鹿なんだろうか。
そんな二人に向かって、ボーイは、にっ、と笑みを見せて、
「なんなら、初めて女を抱いた時のこと、話してやろうか?」
と、聞いた。
この申し出が断られたのは、言うまでもない。
続く




