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第五十五話「対特務艦隊戦」(3)

 いくら逃げても、ホワイト・キャットの方が速い。距離は少しずつ縮まっていく。あとは、味方を信じるのみ。

 ユーリエにミサイルが当たる。シールド率が約五十二パーセントまで落ちる。

 ホワイト・キャットにミサイルが当たる。シールド率が約七十パーセントまで落ちる。

 ユーリエにレーザーが当たる。シールド率が約四十四パーセントまで落ちる。内部にもダメージ。

 ホワイト・キャットにレーザーが当たる。シールド率が約六十五パーセントまで落ちる。内部にもダメージ。

 旗艦が揺れる。

 艦橋が揺れる。

 報告が、入る。

 補助動力機関が破損。修復不可能。

 ガード・レーザー半数が大破。使用不能。

 副艦橋に被弾。完全に沈黙。

 船尾乗組員に緊急通達。

 船首方向へ移動せよ。繰り返す。船首方向へ移動せよ。

 ユーリエにレーザーが当たる。シールド率が約三十二パーセントまで落ちる。

 ホワイト・キャットにミサイルが当たる。シールド率が約六十パーセントまで落ちる。

 自動修復システムに深刻なダメージ。回復率ダウン。

 残念だが、分が悪い。

 ユーリエ艦内のあちこちで、祈りの言葉が囁かれる。

 …御加護を…。皇帝陛下の御加護を…。

 左舷第二区間に被弾。完全封鎖。副砲の修理にあたっていた作業員を含め、六名が推定死亡。

 レーザーとミサイルが、船尾に、側面に、当たり続ける。

「勝てる」

 呟いた。決意を込めて。

 戦艦と戦闘機では、当たり前ではあるが、構造が違う。戦艦は主要機関さえ無事ならば、全体の数十パーセントを失っても航行できる。戦闘機はそうはいかない。機体のほぼすべてが、主要機関である。シールド以外の数パーセントを失えば、消滅に直結する。ホワイト・キャットが通常の戦闘機でない点を考慮しても、十パーセント台の損傷には耐えられない筈であった。

「敵艦、本艦に追いつきますっ」

「衝撃防御だっ!」

 この攻撃さえ凌げば、それで勝てる。勝てる筈だ。

「主砲レーザー来ますっ!」

 両艦の距離は、すでに十万キロを切っていた。


「敵戦艦、側面通過っ。レーザー命中っ」

「下方に旋回っ。どうなったっ?」

「戦艦撃沈まだですわっ。ですけどおそらく、ワープはできませんわよっ」

 ナチアの返答に、シンは頷く。これで残る目標は、空母だけである。空母さえ落とせば、ワープで逃げられる。

「クリスっ、こちらはどうだ?」

「シールド損傷率五十四パーセント。ワープ機関は無事ですっ」

「よし、あと二十分だな?」

「十八分におまけしちゃうっ」

「よく言ったっ」

 旋回したその先に、空母の姿があった。モニターに拡大表示されている。

「ユーキ」

「はいっ」

「しばらく休んでいろ」

「ええっ?」

 ユーキが大きな声を出した。

「いやっ、まだ、わたしやれます、だから…っ」

「やれるのは分かっている。相手は空母だ。攻撃力は低い。このあと敷かれる、包囲網に備えろ」

「でもっ…」

「問題ない。今は休め、いいな?」

 渋々了承したものの、ユーキは自分の状態が分からなくなっている。危険な兆候であった。


「空母ミレーヌ被弾、大破っ、メイン・チャンネル沈黙っ。…航行不能ですっ」

 ここまでしなければ、勝てないのか。

 メルビスは歯を食いしばった。

 結果的に、空母までも犠牲にした。旗艦も損傷し、後方に下がらざるをえない。

 残る手段は、損害の少ない戦闘機群で接近戦を仕掛けるしかない。乱戦になれば、重力場が交差して天然のコン・シールドとなる。包囲網を形成する大型艦からの攻撃は困難となるが、敵艦を閉じ込めることはできるだろう。

「ミレーヌの敵討ちだっ、戦闘機に発令、全機敵艦に攻撃せよっ」

「了解っ」

 復唱の声を聞きながら、メルビスは何度目かの床を蹴りつけた。

 たとえ勝てたとしても、もう、これまでの自分に戻れない気がした。

 たかが戦闘機一機のために、多くの仲間を失った。

 相手が実は化け物であったなど、誰に信じてもらえるというのか。

 メルビスは、自らの運命を呪った。

 せめて。

 せめて、奴だけは落とさなくては。

 白い化け猫に対して、最後の攻撃が始まった。


 三十一機の戦闘機。

 五分後には、二十七機の戦闘機。その減少の代償としてマーベリックが支払ったのは、六パーセントのシールド損傷と、ガード・レーザーの砲門一つ。そして、一人の少女の精神の均衡。

 マーベリックを取り巻く戦闘機群は、決死の攻撃を行ってきた。

 戻るべき空母を失った彼らの怒りは、マーベリックの周りを炎となって取り囲んだ。

 基本的に、戦闘機は単体でのワープができない。母艦を喪失したパイロット達は機体を乗り捨てなければならないのである。そして、大概のパイロットは、それを潔いとしない傾向があった。

 乗り捨てる時。それはすなわち、敵を倒し終えた時である。

 メルビスの部下も、そんなパイロット達であった。

 さらに五分が経ち、五機の戦闘機が爆発した。

 一方のマーベリックは、ミラー・シールドと、ユーキの心に、少しずつ傷を増やしていった。

 残る三人がユーキを手伝ったが、やはり、ミサイルの恐怖を直接受けとめるのはユーキであり、その姿は、狂気の一歩手前であった。

 無限に思えた時間が過ぎ去り。そして、ワープの準備が整った。

 クリスが奇声を上げ、ユーキにも僅かに笑顔が戻った。

 マーベリックのシールド損傷率は六割を大きく超え、各部の損傷は、相当なものであった。

 しかしそれでも、ワープ機関は健在であった。

 クリスが機関に、希望の火を入れた。


 メルビスは、その報告を聞いて愕然とした。

 間に合わなかった。敵艦のワープに。

 戦闘開始直後の、主砲の威力を見た時から、予想はしていた。戦艦と空母を落とされたら、後がないと。だからこそ、決死の覚悟で攻撃を加え続けたのである。

 すでにホワイト・キャットは、ワープの態勢に入っている。亜光速空間への突入は、数分後にやってくる。

 通信官がメルビスを見ていた。次の命令を待っている。

 追いたい。追いたいが、できない。

 ワープ可能な船は、戦艦一に巡洋艦三。それのみである。ワープ直後に長距離戦闘になったら、勝ち目がない。無理矢理、近距離戦闘に持ち込もうにも、戦闘機を揃えることができない。

「ぎりぎりまで攻撃を加えろ…。亜光速に入ったら、重質量ミサイルを発射しておけ。嫌がらせ程度にはなるだろう…」

 長い戦いが、終わろうとしていた。

続く

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