第五十五話「対特務艦隊戦」(2)
「空母ミレーヌ被弾、中破しましたっ、シールド率、五十パーセントを割っていますっ」
「シャールークはどうしたっ?」
「駆逐艦シャールーク、現在敵艦を追撃中、0‐4・1‐2、本艦との距離約二百二十万っ」
「速度を合わせて、包囲網を再構築っ。奴を逃がすな。包囲網展開後、中間距離から攻撃を仕掛けるっ。ミレーヌからも全戦闘機を射出しておけっ」
総力戦だっ!
司令官が叫び、艦橋が力を取り戻す。
メルビスの頭の中で、すでに駆逐艦シャールークは、失われるものと想定されていた。小回りの性能においても、最大火力においても、敵ホワイト・キャットに劣っている。時間をかせいでくれれば、それで十分と考えるしかない。
相対速度を合わせ、包囲網で抑え込み、ミサイルとレーザーと戦闘機で袋叩きにする。
もはや余裕も、手加減もない。全力で叩かねば、食われるのは自分達である。
目の前のスクリーンでは、形だけは敵を追いつめている、駆逐艦の軌跡が描かれていた。
勝てる。
メルビスは確信した。払った犠牲は大きかったが、それでも、勝つための道筋は見えた。
逃がしはしない。
メルビスが決意を新たにした時、駆逐艦シャールークは撃沈された。
まずいな。
シンは焦っていた。空母に少なからずダメージを与え、駆逐艦を撃沈したまではよかったが、そのあとが後手にまわった。
包囲網の中、コン・シールドを解除され、四方から攻撃を受けはじめていた。距離をとることもできず、かといって近距離にも持ち込めず、レーザーの照準も固定できなかった。無数のミサイルを引き受けているユーキにも限界が近づいている。下手をすれば、発狂してもおかしくないほどのミサイルが、一号機副操縦席のスクリーンに広がっていた。
いくらシンが手伝っても、落とせる数のミサイルではなかった。ひとつ、ふたつと、ミサイルが当たり、その度にミラー状装甲のシールド率が下がる。シールド率が下がれば、反射率も下がる。そこにレーザーが当たる。ダメージが計上され、さらにシールド率が下がる。キキがスクリーン上を駆け回るが、自動修復システムが完全に回復していない状態では、シールド復旧にも限界がある。シールドの減少率よりも回復率の方が低い。身を削られるようにして、マーベリックは被弾していった。
シンが活路を見出せず、やがて訪れる敗北を覚悟しようとした時。
変化が、生まれた。
これまで遠巻きにしていた、敵戦闘機群が襲ってきたのである。
総数三十一。
見事なまでの連携で、マーベリックに迫ってくる。
勝ち急いだな、メルビス。
敵司令官を呼び捨てにして、シンは、心の中で不敵に笑った。勝機が転がってきた。
「ナチア、直進、最大戦速だっ」
「わかりましたわっ」
「間をすり抜け、戦艦に攻撃を加えるっ」
戦闘機の襲来に前後して、大型艦からの攻撃が薄らいだ。その一瞬の隙を、シンは見逃さなかった。
「ユーキっ」
「はいっ」
「戦闘機のミサイルも来るぞ、頼めるか?」
「やってみますっ」
強張ったままの顔が、痛々しかった。
すまん、ユーキ。
心の中で謝り、さらに過酷な命令を下す。
「この次は主砲を三連射する。エネルギーの減少に気を付けろ」
他に、戦法が思いつかなかった。
「了解」
「すまん、お前が頼りだ」
「うん」
ユーキの目が僅かに輝く。その輝きが、シンには眩しい。自分はユーキの好意を利用している。
「クリスっ、ワープまでの時間は?」
「あと、約三十分」
「急げよ」
「りょーかいっ」
マーベリックは敵戦闘機群とすれ違い、メルビスの搭乗する旗艦ユーリエへと突っ込んでいった。
「敵艦、来ますっ」
戦闘機を送り込むタイミングを、メルビスは誤ったのかもしれない。ミサイルの残数に気をとられた。どちらにせよ、あの戦況は長く続けられなかったと、割り切るしかない。あとは、後悔を後悔で終わらせぬよう、力を尽くすのみである。
「…ユーリエ、百八十度回頭だ」
苦渋の決断。人生で初めての命令。
部下達が、驚いた表情で見ている。
「敵艦から全速で逃げろ。本艦を囮にして、さらに後方から残る戦力で追撃せよ…」
敵のコン・シールド・マスターは、もはや人の域を超えている。神か悪魔か。どちらにせよ、旗艦のコン・シールドは無力化される。
ならば、自らコン・シールドを放棄して、囮となる。背を向けるとは、そういうことだ。
決死の覚悟は、寸分違わず伝播した。通信官が吠えた。
「旗艦ユーリエより、全艦隊に告げるっ。これより本艦は敵艦を引きつけ、囮となるっ。残る全戦力をかけ、敵艦を追撃、これを撃墜せよっ!」
メルビスの人生において、最も長い十分間が始まった。
「敵戦艦、回頭しましたわ。…ほぼ、百八十度っ」
「うっそ…」
退路がないのは、マーベリックも同じ。他に採るべき戦法もなかった。
残る戦艦と巡洋艦は、反撃を受けないぎりぎりの距離で並走の構えである。空母も同様に、後方から追走してくる。
「最大戦速を維持。目標は変更しない。ミサイルも発射するぞ」
敵戦艦が逃げ、マーベリックが追い、その後方から戦闘機群が襲いくる。誰にとっても望ましくない、消耗戦の形となった。
続く




