16「ウェルハルトの説明」②
アストリットは生唾を飲み込んだ。
どのような理由があってレダに渡されたのかわからない魔導書の中には、『死者蘇生』の魔術まであったのだ。
「残念ながら、僕にはレダ兄上に渡された魔導書の内容はわからないのです。僕は魔術師ではないですからね」
「そ、そうなのね」
ウェルハルトの言葉に、内心ホッとする。
王子である弟が内容を理解していないのであれば、公爵たちも中身を知らない可能性は大きい。
死者蘇生をレダに願うことなどあってはならない。
いや、レダだけでの話ではない。
誰であっても、死者蘇生など許されることではないのだ。
仮に、王が望んだとしても、叶えてはいけないことだった。
――アストリットは、まだ王の真意を尋ねることができていない。
「公爵家、侯爵家、伯爵家も、いえ、貴族なら少なからず家で抱えている治癒士や医者がいます。もちろん、王族もです」
「……そうね」
「ですが、誰もがレダ兄上のような規格外の力を持っているわけではありません。正直、レダ兄上の弟子たちよりもレベル的には低いでしょう」
「……そうなの?」
「ええ、それはもうはっきりと違いますよ。回復ギルドのアマンダ女史とも意見を交換したことがありますが、治癒も結局は魔術です。使えば使うほど上達するんですよ」
「……それはそうなんでしょうけど」
「王都の治癒士たちは、今まで金のある患者しか治療していません。貴族のお抱え治癒士も雇われた一族の者以外に治癒を行わないでしょう。対して、レダ兄上たちは怪我人が多いアムルスで毎日多くの患者を相手にしています。自然と、治癒の技量が上がっていくんです」
「そうね、そういえば、そうよね! どうして気づかなかったのかしら!」
「無論、貴族に召し抱えられるような治癒士の技量が低いとは言いません。剣士も同じですが、鍛錬を疎かにすれば技量は下がっていくでしょう」
魔術師たちにとって、ある意味ゴールは貴族のお抱えになることだ。
もちろん、その後、クビになることだって可能性としてはあるのだが、治癒士ならばそうはならないだろう。
貴族に決まった給金をもらい、安定した生活ができる。
そんな状況で、雇い主とその関係者以外の治癒をするだろうか。否、しないだろう。
少なくとも、高額な治療費を請求するような治癒士はしないはずだ。
貴族が毎日怪我をするとは思わない。
治癒を使わない日の方が多いかもしれない。
そんな中、治癒士の技量が落ちていくのはしかたがないことだろう。
「まあ、そんなわけで、レダ兄上には『いざ』何かあった時に助けて欲しい。自分を、家族を救って欲しいと期待しているのです。だから、後ろ盾になってくれるんですよ」
「……本当に貴族って」
ははは、と笑うウェルハルトに対し、アストリットは頭痛を覚えた。
すべて見返りを求めてばかりではないのだろうけど、ウェルハルトの説明を受ければ誤解してしまいそうになる。
どちらにせよ、レダの苦労が増えそうだ。
アストリットは今以上にレダを支えようと決意するのだった。




