14「ウェルハルトの説明」②
「はっはっは、さすがに父上に殴り飛ばされました! 生まれて今日まで、数えきれないほど殴られていますが、今までで最強のパンチでした。さすが陛下パンチ!」
「技名がダサすぎるわね」
「おっと、きちんとしたものを考えておきます」
「別にいいわよ、そんなこと」
「じゃあやめます!」
実際、国王ヒューゴは息子を殴り飛ばす際、「余計なこと言うな! 貴族たちがその気になったらどうする! よほどお前よりもレダ・ディクソンの方が人格者だぞ!」と叱っている。
国王は血で繋いでいる者だ。
そのために辛いことは山のようにある。
そんな呪われた椅子にレダを座らせるなど言語道断。
そうヒューゴは怒ったのだ。
「というわけで、レダ・ディクソン兄上には男爵になっていただきます。領地も、という提案もありますが、それでは兄上も困るでしょうから『とりあえず今回は爵位のみ』です」
「含みのある言い方ね」
「ふふふ、それは追々お話をしましょう」
ウェルハルトはにこやかなまま表情を崩さない。
対して、アストリットは不満顔だ。
知らないところで、大きなことが決まっていたことを不服に思っているのだ。
レダのことを考えてくれていることは嘘ではないのだろうが、レダの負担にもなることも間違いないのが嫌だった。
「あまり悲しい顔をしないでください。姉上のそんなお顔……おい、誰か国で一番の画家を呼んで来るんだ!」
「――殿下、殿下。欲望が素直に出てしまっておりますぞ」
「……………あまり悲しい顔をしないでください。姉上のそんなお顔は見たくありません」
「言い直したじゃないの」
「てへへ」
はぁ、とアストリットは大きくため息を吐いた。
王子として振る舞うウェルハルトとシスコンのウェルハルト、どちらが本当の弟なのだろうか。
きっと両方、可愛い弟であることは変わらないのだろうが、極端すぎて悩む。
「殿下、アストリット様に例の件をお伝えしておくべきではないでしょうか?」
「――嫌だ。お前が言え、ダンリック」
「そ、拙者はその、王女殿下に恐れ多く」
「まだ、何かあるの?」
「あまり気を悪くしていただきたいくないのですが……ご自衛のためにもお伝えさせていただきます」
「自衛」という言葉が出てきたので、アストリットが身構えてしまう。
何か自分の身に危険があるのか、と悪く受け取ってしまうのは仕方がないことだった。
「姉上が王宮に戻って数日。お美しく元気な夏の精霊のごとくお姿を皆にこれでもかと見せつけておりました」
「……見せつけたつもりはないのだけど。極力部屋からも出なかったし」
「それゆえにっ!」
「聞きなさいよ、私の話を」
「王宮にいた有象無象どもが分不相応に姉上に懸想しやがったんです! あの役に立たないくせに爵位を引き継ぐ長男だからと素行の悪い屑が、父親を使い姉上を結婚したいなどと言いやがりましてね! いやぁ、初めてですよ、目の前が真っ赤になるなんて感覚は……まあ、もう二度と、そんな愚かなことを言う輩が出てこないよう見せしめにしましたが」
「…………えっと」
「つーまーりー、お姉様の美しさに、夜に輝く街灯に群がる蛾どもが集まりかけたということです! お姉様が伏せってから耳障りな噂をぴーちくぱーちく囀っていた奴らが、調子のいいことに!」
「気にしないわ。私はレダの」
「はい、レダ・ディクソンの妻のひとりです。ですが、両親が認めても、正式なものではありません。今までなら、このままでよかったのですが、災厄の獣の退治、巨大な魔石を手に入れたことから、放置できませんでした。姉上を娶るには、爵位を持っていなければまずいのです。人の足を引っ張ることが趣味な貴族たちが後で何をするのかもわかりませんしね」
これだから貴族は嫌いなのだ。
アストリットは自分の存在がレダに負担を強いているのだと思い、手を強く握りしめた。
「ご心配なく。我が国の上層部は、比較的まともです。公爵、侯爵、伯爵の半分以上がレダ兄上に友好的ですので、不安なことを繰り返し言ってしまいましたが、何かあれば守ってくださるでしょう。まあ、僕ほど姉上たちを守れる人間はいませんけどね!」
ウェルハルトが名を挙げた貴族たちは、誰もが権力を持ち、人格者だった。
中には、癖のある貴族もいるが、そんな方々がレダの味方になってくれる理由がわからない。
「不思議そうなお顔をしていますね。まるで薔薇の精霊のようだ。貴族たちは、レダ兄上に家族を救われた者がいます。これから救ってほしいと願っている者がいます。何よりも、自分たちを救ってほしいと願っている者たちがいます」
「見返りは求められるのね」
「もちろんです。貴族の無性の善意なんて気色悪いでしょう?」




