11「ウェルハルトの理由」①
ウェルハルトはにこりと笑った。
「なんだ、そのことでしたか。さあ、どうぞ姉上。お座りください。姉上がいつでも僕を訪れてくださっても問題ないよう、姉上のお好きなお茶と焼き菓子を用意しております」
「……このままでいいわ。お茶もお菓子もいらない。あまり驚いていないようね」
アストリットが弟を睨む。
だが、ウェルハルトは姉に睨まれて嬉しそうにしているだけ。
「はい。僕も関わっていますので」
「……ウェルハルト」
「誤解のないように言っておきますが、レダ兄上に害を与えようなどと毛ほども考えていません。アストリット姉上の愛するレダ兄上は僕に取って実兄と変わりません! ディクソン一家は、僕にとって大切な家族なのです!」
「じゃあ、説明をしてちょうだい。どうして、レダを貴族になんて」
ウェルハルトは微笑みを崩さないまま、口を開く。
「アストリット姉上が、レダ兄上によって快癒した時から爵位を与えることは父と母は考えていました」
「……そう、なの?」
「一国の王女の怪我を治したのです。十分な功績ですよ。しかし、なんといいますか、誤算がありました。姉上は、王宮に戻らずアムルスでの生活をはじめました」
「王女らしいことは何もしていないから、今さら王女に戻って何をするというの?」
「その判断は別に間違っていないと思います。父も母も、私ほどではありませんが姉上の幸せを願っています。ぶっちゃけてしまうと、姉上が王宮に戻ったら戻ったで面倒くさくなるであろうことは余裕で予想できます。いつでも戻っていいように、膿は排除しておきたかったのですが……すべては無理でした」
アストリットは弟の言葉の意味を理解することに苦しむ。
王女として仕事をしたことがないわけではないが、少ない。
その後は、ずっと怪我のせいで暴言を吐き続ける日々。もし、両親が王族として割り切っていたら、今のような未来は訪れなかっただろう。
王であるまえに、王妃であるまえに、ひとりの親として愛してくれていたからこそ、今のアストリットはいるのだ。
両親に、ウェルハルトに感謝している。しているが、それとレダの爵位の問題がどう繋がるのかわからない。
「姉上が王宮にお戻りなっていることは、すでに王都中に広がっています。時に貴族ですね。いつ怪我が治ったなんて情報の遅い貴族もいますが、想像していたよりもお美しいお姉さまに驚いたのでしょう」
「……そうね、私には過去の傷ひとつないわ」
「はい。さすがレダ兄上です。お姉様の怪我がひどいことは貴族なら知っています。その姉上を快癒させた、レダ兄上を放っておくほど間抜けな貴族はいません」
「……だからって、爵位を与えたら貴族の中に」
「わかっています。その上で、爵位を与えます。言い方はとても悪いですが、愚かな貴族をレダ兄上を使って炙り出します」
「――な」
「ご安心を。こちらで勝手にやります。少々、面倒臭いことになるかもしれませんが、後ろに王家、公爵家が控えているので問題ありません」
にこやかな笑みを浮かべながら、怖いことを言うウェルハルトが「王族」であることを改めて理解した。
そして、「こう」はなれないと思い知らされた。




