10「アストリットの怒り」②
「嗚呼、姉上! なぜあなたは姉上なのですか! この世界から姉上以外の姉はすべて消えてしまえばいいのに! 僕の姉だけが、世界を代表する姉上であり、名誉姉上であるのですぅううううううううううううううう!」
「……ウェルハルト殿下、殿下……そのアストリット殿下の前で、控えめに言って気色の悪い言動をしているので改めた方がよろしいかと拙者は思います」
「剣聖」ダンリックが、そっとウェルハルトに耳打ちをするが、戦場にいた男であるため声は大きい。そのため、アストリットに丸聞こえだ。
弟の言動に引いていたアストリットは、勢いで部屋に入ってきたものの、冷静さを取り戻し、そっと弟から距離を取った。
「はぁはぁはぁ、申し訳ない姉上。姉上のドレス姿に感極まってしまいました」
「そうね、絶好調だったわね」
「あの、少し距離が遠くありませんか?」
「気のせいよ」
「姉上がそうおっしゃるのなら、そうなのでしょう。この世界に置いて、姉上の言葉は絶対ですからね!」
「……本当にこの子はこんな子だったかしら」
怪我をする前に交流はあったが、ここまで好かれる理由は思いつかない。
少々過剰な感情をぶつけられてはいるが、王宮において無条件に好意を抱いてくれる人間は貴重だ。
アストリットは怪我のせいとはいえ、酷い暴言と態度をとっていた。
そんなアストリットの世話をしてくれていた使用人たちに、全員感謝をして回った。
すでに一度、感謝を伝えているが、何度伝えても足りない。
久しぶりに王都に戻ってきて、元気にやっているという報告と感謝を伝えて回ったのだ。
もちろん、みんながみんなアストリットを歓迎してくれたわけではない。仲には、当時のアストリットの態度を思い出したのか、怯えた顔をする人もいた。謝罪をしても、消えることはない。
ならば、態度で示さなければならない。
アストリットの兄弟はウェルハルトだけではない。他にもいるが、あまり仲がいいとは言えない。
交流がなかったのが一番の理由だが、特に妹たちは怪我をする前から不仲だ。
思い返せば、自分はあまり良い姉ではなかったと思う。それ以前に、よい人間だったのかも怪しい。
だからこそ、好意を抱いてくれる人を大事にしようと思うし、嫌われていても悪い態度を取ることはしない。
――それでも、今回は別だ。
「ウェルハルト、先ほど信じられない話を聞いたわ」
「王宮の中はいつでも信じられない話ばかりですよ。例えば、僕が実は妹だったとか、ね!」
「そういう戯言はいいの。というか、わざと言っているでしょう?」
「――バレましたか」
「わかるわよ」
「さすがお姉様。僕の、春の精霊のようなお姉様!」
「ありがとう。それで、どういうことか、説明してちょうだい」
アストリットはウェルハルトに詰め寄った。
「どうしてレダに爵位を与えるなんて話になっているの!?」




