6「ルナの出会い」①
――ライリート商会
マーゴット・ライリートの親族が経営していた商会だったが、中規模のよくある商会だった。
目立った実績も、顧客もおらず、ありふれた商会のひとつ。
そんな商会をマーゴットが規模を拡大することに成功した。
彼女が行ったことは、モンスターの被害にあった土地に支援物資を無償で送ることだった。
金はかかったが、感謝され、名を覚えられた。復興のための支援を続け、その地を収める貴族に恩を売り、その地ならではの「特産品」を得ることを可能とした。
食べることに困り、明日に希望を見出せない人間は救ってくれた恩人を絶対に忘れない。
打算はもちろんあったが、同時に被害に遭った人を救いたいという善行の気持ちも間違いなくあった。
その想いが伝わり、何かが起きればライリート商会に声がかかるようになった。すると、ライリート商会よりも大きな商会が近づいてきて、表向きには善行の手助けを助けてくれるように成った。
エンジーが生まれる前からこつこつ始めたことが実り、今では王都でも十指に入る商会に成長した。
地方に行っても、ライリート商会の名は知っている者が多い。
さらに、ライリート商会は冒険者への支援も行なっていた。
現役冒険者ではなく、怪我などで冒険者業ができなくなった者に治療と仕事の斡旋をしていたのだ。
意外と、金がないから冒険者をしていたが、実は絵を描きたかった、実は剣を打ちたかった、実は料理を作りたかったという者は多い。
そんな隠れた才能を持つ人間にも支援をした。
マーゴット・ライリートは善人だ。
だが、彼女の善行を知る人間は――残念ながら少ない。
どちらかと言えば、金貸しの一面の方が有名だ。
マーゴット・ライリートは決して、己の善行をひけらかさない。
――恥ずかしいから。
■
レダたちは、王都の中でも選ばれた人間しか入れないとまで噂話をされるライリート商会の中を歩き、ほう、とため息を着く。
冒険者時代にレダが通った、所狭しと武器や防具、道具が置いてある店とは違い、通路が広く並ぶ商品も決して多いわけではない、いや、むしろ少ないが厳選された物ばかりだ。
聞けば、必要なものがあれば基本的に奥から持ってきて用意する。消耗品は事前に連絡を受け数を用意しておく場合もあるが、常連になればある程度の準備は言わずともしてくれるようだ。
上位の冒険者たちがライリート商店に通うのはそういうところだろう。
「ねえねえ、パパ。いくらまで買っていいかしらぁ? さすがに伝説の魔剣を買いたいとは言わないけれどぉ、せっかく王都に来たんだからぁ、アムルスでドヤ顔できるくらいの一品は欲しいわぁ」
「……お金はそれなりに溜まっているけど、ほどほどでお願いします。甲斐性がなくてごめんね」
「ふふふ、パパったら。やりくりするのが妻じゃなぁい」
ルナにおねだりされたが、一流の武器をぽんと買うほどお金は持っていない。
しかし、悩む。
レダが知る限り、ルナの技量は一流だ。
単純に体術だけならば、勇者ナオミ・ダニエルズとも戦えてしまうのだ。
ルナの得意とするのは、軽快な素早い動きだ。地面も壁も構わず軽やかに走り、瞬く間に短剣を振るう。
細くしなやかな肉体に無駄は一切なく、宙を軽々と舞う姿は妖精のようだ。
だからこそ、彼女に相応しい武器があれば頑張りたいと思うのだが、同時に、武器を得て誰と戦うのだとも悩んでしまう。
過保護ではあるが、妻に戦ってほしくない。
特に、災厄の獣と命をかけて戦ったレダだからこそ、そんなことを思ってしまうのだ。
どうしたものかと、考えているレダの隣を歩いていたルナが足を止めた。
遅れて、全員が足を止め、ルナを見た。
「――ルナ?」
「お姉ちゃん?」
みんなの視線がルナに向く。
しかし、ルナは何も言わず魅入られたように炎のような赤い双剣を見つめていた。




