2「処罰について」
ふう、と大きく息を吐き出したマイオンにウェルハルトが微笑む。
「良い話だった。ただし、この話は他言無用だ。私自身、レダ兄上やアイーシャに話すべきか悩んでしまう。すでに悪い結末が訪れている以上、慰めになるどころか、後悔に繋がってしまう可能性もある」
「承知しました。私がジールの一件を誰かに話すことはないとお約束します」
「感謝するよ。しかし、頭の痛い話だね。前任者は漆黒の狼にしたようなことを他のパーティーにもしていたようだからね。人生が狂ったどころか、命が奪われた者もいただろう」
「はい」
その後、ウェルハルトとマイオンは情報を擦り合わせるように互いの調べたことを照らし合わせる。
あっという間に、三時間が経った。
「殿下、マイオン殿、少々休憩を挟んでもよろしいでしょう」
護衛のダンリックが焼き菓子と紅茶を机の上に並べていく。
「ああ、そういえば、初めの一杯茶を飲んだだけでずっと喋りっぱなしだったな。すまないな、マイオン殿。私は一度集中すると他のことを忘れてしまうのだ」
「いえ、私も同じですので、お気になさらず」
「そう言ってくれると、助かるな。では、小休憩としよう」
毒味もせず焼き菓子を口に運ぶウェルハルトにマイオンが目を丸くした。
王族が口にする物は信頼した者が作っているが、それでも毒味は必須だ。いつ何がどんなタイミングで起きるのかわからないからだ。
「気にしなくていいぞ、マイオン殿。この菓子はダンリックが作った」
「某、料理が趣味でして。こちらの焼き菓子も作らせていただきました。王宮の厨房は素晴らしいですね。材料も一級品、道具も一級品、存分に使えて楽しいのですよ。ささ、どうぞ」
「……いただきます」
マドレーヌをそっと手に取り、口に運ぶ。
しっとりとしてバターの香りがよく、甘さもしつこくない。
「――とても美味しいです」
「ありがとうございます」
「そうだろう? 頭を使うと甘いものを欲してしまうが、毒味だなんだとうるさいのでダンリックに作ってもらっている。今ではすっかりダンリックの料理の虜だ。一応、毒味がどうこうの心配を周囲の人間がしているのだが、私はダンリックに何度も命を救ってもらったことがある。そんなダンリックが私を殺そうとするのなら、それ相応の理由があるのだろう。私は彼になら殺されても構わない」
ウェルハルトのダンリックへの深い信頼を感じた。
「少々行儀は悪いが、食べながら話をしよう。君も気になっているだろう、前任者の処分を?」
「――はい。正直、いつ、お話してくださるのかとお待ちしていました」
「すまないな。少し勿体ぶってしまったな。では、結論から言おう。前冒険者ギルド長は死刑だ。彼を担いで私利私欲に走った者たちも同じく死刑だ」
敵対関係であったとはいえ、前任者の死が決まったことにマイオンは息を飲む。
「彼らは少々やりすぎた。ギルド内のことでも十分やりすぎだというのに、民にも危害を与えていた。しかも、反省した様子は見せているが死にたくないからだろうね。前冒険者ギルド長に至っては権利だとほざいてくれたよ」
「……冒険者ギルドを代表し、謝罪を」
「いや、必要ない。彼らと今の冒険者ギルドは無関係だからね。ただし、彼らに味方していた冒険者たちもペナルティを与える。死刑にする者もいれば、労働刑に処す者もいる。既に対象者は捕えているのは知っているよね?」
「はい」
「問題は、元幹部たちの家族だ」
「……悪事に関わっていない者には温情をいただけると」
敵が多い前任者にも家族はいる。
幹部たちにもだ。
家族も同様に悪事を働いていた場合、処罰するなとは言うつもりはないが、何も知らず、何もしていないのであれば罰を受けるべきではない。
甘いだろうが、そのくらいの慈悲があってもいいのではないかと思う。
「もちろん、私だって血も涙もない王子だと思われたくないからね。ただ、残念なことに、家族たちの大半はやりたい放題だったよ。むしろ、もっとタチが悪かった。幼い子、冷遇されていた者を除き、何かしらの悪事を働いている。よって、最低でも国外追放、最大で死刑だ。まったく、なぜ度を超えた悪事を働いて自分だけは許されると思うのか不思議でならないよ」
民に手を出した犯罪者を、ウェルハルトが許すはずがなかったのだ。




