プロローグ「新ギルド長は語る」
マイオン冒険者ギルド長は緊張と恐怖で震えながら、ウェルハルト・ウィンザードに前冒険者ギルド長が長年に渡り隠していた悪事を伝えようと口を開こうとする。
「念の為に言っておくけど、これは君からの報告ではあるが、僕たちも調べてはいるので情報のすり合わせでもある。どれだけ冒険者ギルドに不都合なことがあったとしても嘘偽りなく答えるように」
「もちろんです」
ウェルハルトに釘を刺されながら、マイオンは改めて口を開いた。
「まず、前冒険者ギルド長、前任とさせていただきます。冒険者ギルドに関して遡ってみましたが、その前からそれなりに悪さをしておりましたが、一線は超えていませんでした」
「ふむ、つまり人身売買かな?」
「はい。得意先から金をもらってはいましたし、王宮にも寄付として金を贈ってはいましたが、人間関係を潤滑にする程度の悪事しかしていませんでした。無論、私自身も悪事は悪事として自覚して行っているので、決して褒められたことではないということは承知しております」
「まあ、そうだね。僕も悪さはしているから、その辺はいいよ。ただ、前任者は悪事を悪事と認識していなかったと僕は受け取っている。君はどうかな?」
「はい。ウェルハルト殿下と同じ考えです。私と、信頼できる数名でギルドの資料を漁りましたが、人身売買を行い、気に入らない冒険者の殺害計画、有能な冒険者の情報の売買記録も山のようにありました」
マイオンは小悪党だが、好き好んで悪事を働いているわけではない。
ほどほどに悪いことをしなければのし上がれない世界に足を踏み入れ、権力争いに敗北したのだ。
それでも、前任者はやりすぎだ。
小悪党にも線引きはある。仲間である冒険者のマイナスになることはしない。国が被害を被ることはしない。と、最低限のルールはあるのだ。
しかし、前任者にはそのルールがない。あるのは、いかに私利私欲を満たすか、それだけだ。
同時に、そんな男に争い負けたことが恥ずかしい。
「僕たちが浚った以上にあったと?」
「はい。前任者が囲っていた女の家にいくつか資料が分散されていました」
「なるほど。調べさせてはいたんだが、見つかっていなかったものもあったようだね。素晴らしいよ、マイオン殿」
「ありがとうございます」
「それで、彼は何をしたのかな?」
「はい。隣国をはじめ他国へ情報を売っていました。追って、偽情報を流しましたが、どれくらい情報が中和できたのか不明です。人身売買に関しても追跡をさせています」
「うん、僕が動かせる騎士たちも動いているよ」
「存じています。いくつか人身売買組織、俗に言う裏ギルドは勇者ナオミ・ダニエルズ様が壊滅させているので残党狩りを行うことと、売られた人間を探し保護することに徹します。裏ギルドが崩壊時に結構な数の人間が保護されていますが、それでも時間がまだかかるでしょう」
「勇者殿には頭が下がるよ。彼の方は、感覚で動いているようだが、その感覚こそ勇者がすべき行動を行っている。彼女は裏ギルドを滅ぼし、ふらりとアムルスに向かい、結果的に災厄の獣と戦い倒した。素晴らしい」
「――災厄の獣を倒した者の中に、レダ・ディクソンがいましたね」
「無論。彼の役割はあまりにも大きかった。君は彼を知っているかな?」
「――はい」
ほう、とウェルハルトが興味深そうな顔をした。
「直接顔を合わせたのは数える程度でしかありませんが、新米冒険者が世話になったという話を嬉々として話しているのを聞きました。治癒が使える冒険者だけでも珍しいというのに金を取らなかったと。正直、嘘ではないかと疑いました」
「実にレダ兄上らしいね」
「その後、冒険者を引退必須な怪我をした冒険者が怪我などはじめからなかったように元気になったことがあります。それもレダ・ディクソンのおかげだそうです。しかし、彼はどうも目立つのが嫌いだった」
「利用されることを恐れたのか、それとも単純に目立つことが嫌いだったのか、レダ兄上ならばどちらも可能性はありそうだね」
「……そうですね。私は聞き取り調査として彼と話をしました」
マイオンは当時を思い出すように目を伏せ、苦笑した。
「良いことをしたのであれば感謝をしたいので話を聞いているようなのに、まるで悪さをした子供のように身を縮こませていました。すぐに利用され、損をする人間であると見抜き――私は利用しようと考えました」
「ほう。それは、穏やかではないね」
「ご心配なく。彼に正当な評価を受けてもらおうとしただけです。まあ、その恩恵に預かろうとは思っていましたが……ですが、失敗しました。レダ・ディクソンではなく、パーティー漆黒の狼がすでに前任者の紐付きだったからです」
「前任者はすでにレダ兄上の実力を知っていた、と?」
ウェルハルトの疑問に、マイオンは首を横に振った。
「いいえ、彼は何も気づいていませんでした。どちらかと言うと勢いがあるパーティーを飼い慣らし利用しようとしただけです。前任者は、とても鼻が効くんです。利用できそうなほどほどに頭の悪い人間を」
「なるほど」
「パーティーリーダージールは目に見えて出世欲のある男でした。ただし、初めは善人だったと言えましょう。面倒見が良く、仲間を庇い、困っている人間を見たらつい声をかけてしまう。そんな人間でした。レダ・ディクソンに声をかけたのも、まだジールがジールらしい時だったはずです」
「彼を調べると調べるだけ、両極端な評価が出てくるな。だが、皆がこう言う、昔はあんな奴じゃなかったんだ、とね」
「同感です。前任者の後ろ盾を得て、調子に乗ってしまったのでしょう。よくあることです。そして前任者は、調子に乗らせて甘い汁を吸わせて自分から離れない駒を作るのがとても得意だったのです」




