エピローグ「ウェルハルトと冒険者ギルド長」
王宮の一角にある執務室に、ウェルハルト・ウィンザードはいた。
彼の傍には護衛である「剣聖」ダンリックが控えている。初老でありながら逞しい肉体を持つ彼は、幾度となくウェルハルトを敵から守ってきた功績を持つ国一番の騎士である。
そんなふたりから少し離れた接客用の椅子に縮こまって座っている小太りの中年男性がいた。顔色が悪く、汗を大量にかいている。給仕が用意してくれた紅茶を飲もうとして手の震えのせいでカタカタとティーカップとソーサーがなってしまうため緊張で乾いた喉を潤すことを先ほど諦めていた。
がたん、とウェルハルトが執務机から離れると、中年男性がびくりと飛び跳ねる。
彼は軽快に歩くと、ソファに腰を下ろした。
続いて、ダンリックがソファの背後に立つ。
「やあ、すまないね。せっかく報告に来てもらったのに待たせてしまうなんて」
「い、いえ、ウェルハルト殿下におきましてはご機嫌麗しく」
「まあまあ、そういうのは無しにしようじゃないか、マイオン冒険者ギルド長殿!」
名を呼ばれ、中年男性がまた震えた。
男はマイオン。「新しく」冒険者ギルド長に就任した人物だ。
そこそこ「できる」人間であったが、前冒険者ギルド長たちと不仲であるため幹部に上がることはできなかった人間だった。
「……わ、私のような者を冒険者ギルド長に推してくださり、ウェルハルト殿下には感謝しています。この場にいない、アマンダ・ロウ回復ギルド長にも、同様の感謝を抱いています」
「うん、いい心がけだね。お礼は大事だ。それで?」
「は、はい。王都の冒険者ギルドの膿は全て出し切りましたことをご報告します」
「本当に?」
「ち、誓って。無論、少々の悪事を働いている者は膿として判断しませんでした」
「はっはっは、君もなかなか悪さをしている人間だものね」
「――――っ」
「もちろん、知っているさ。一国の諜報機関を舐めない方がいい。君の家族、囲っている愛人、ご贔屓の娼館と娼婦、隠し子はいないようだね。私生活はこのくらいかな?」
マイオンの震えが増していく。
「冒険者ギルド職員としては、そこそこ悪さをしているようだね。ギルドを介さない仕事の斡旋、少額の横領、優れた冒険者の情報を貴族に売りお抱えにさせることもある。まあ、小悪党といった感じかな」
「……私を、殺すのでしょうか?」
「なぜ?」
「え?」
「君を冒険者ギルド長に選んだのは僕だ。その僕がなぜ君を殺す必要がある? 君は悪さをしているが、良いことも同じくらいしている。孤児に仕事を住まいを与え、新米冒険者が死なないように中級冒険者への指導を命じ、人間関係をはじめ様々な原因から崩壊寸前の益を産まないパーティーを潰しては使える者を他のパーティーに移籍させている。十分、僕は君のことを評価しているのだが、伝わっていなかったのであれば申し訳ないね。どうりで怯えていると思ったよ」
にこにこと微笑むウェルハルトに、マイオンは少しだけホッとした様子を見せた。
だが、すぐに震えることになる。
「一応、忠告しておくけど、僕は少々ならば悪いことはするなとは言わない。必要なこともあるからね。だけどね、つまらないことをするな、とは助言しておこう」
「は、はひ」
「君はつまらないことはしていないからこそ、良い人材だと考えた。しかし、冒険者ギルド長になり、勘違いしてしまうようであれば僕と君と始まったばかりの友情は即座に終わりを告げるだろう。僕としては、友を失いたくないのだが、君はどう思う?」
「う、ウェルハルト殿下のおっしゃる通りです。冒険者ギルド長として、冒険者のため、民のため、この国のために身を粉にして働かせていただきます」
「ありがとう。君ならそう言ってくれると思っていたよ。じゃあ、さっそくだけど聞かせてくれるかな。君にお願いをした、前冒険者ギルド長たちの腐敗がどれだけのものであったのか、を」




