127「母と息子」④
エンジーとマーゴットの話し合いは無事に終わった。
和解できた親子はその後、再会の約束をするも、親子の会話をすることはしなかった。
まだ早い、と思ったのか、和解できただけで今日は満足だったのかはレダにはわからない。
「またお会いしましょう、お母様」
「ええ、すぐに会いましょう」
そう言ったふたりの表情は穏やかだった。
長い間、胸の奥にあったしこりが取れたことにより、気が楽になっていたのかもしれない。
マーゴットはレダたちに見送られながら用意された馬車の前に立つと、改めてレダたちに向けて深々とお辞儀をした。
「皆様、どうもありがとうございました。失礼な態度をとってしまったこともお詫びします。命を助けていただいたけではなく、息子のことまで……本当に感謝してもしきれません。何かお礼ができればいいのですが……」
「いいえ、お礼なんて。ふたりの関係がより良いものになれば、こちらも嬉しいですのでお気になさらず」
レダはそう言うが、代わりにルナが一歩前に出た。
「マーゴットさんってお店をしているのよねぇ」
「はい。王都でいくつか店を営んでいます」
「その中に武器を扱うお店ってある?」
「ええ、あります。……そういえば、私を助けてくださった際に武器屋に行く途中だったとお聞きしていました。よろしければ、ぜひ私の店にきてください。ぜひお礼をとしてお好きな武器を選んでくださいませ」
「ふふふっ、ありがとぉ!」
待っていました、とばかりに喜ぶルナ。
「ちょっとルナ」
「いいのよぉ。それに、マーゴットさんだって、お礼を言うだけ言っても形にできないとなんか嫌でしょう?」
「……本音を言わせていただくと、お礼として何かをさせていただいた方が気が楽ではあります。無論、命を救っていただいた対価を簡単に払えるとは思えませんが、それでも精一杯のことをさせていただきます」
「パパの優しさはとっても救われるけれど、人によっては借りを返せないことがつらかったりするのよぉ。というわけで、後日お邪魔しまーす!」
「……妻がすみません」
「いいえ、むしろおっしゃっていただけてよかったです。――つま?」
遠慮のないルナに代わり、レダが謝罪すると、マーゴットが初めて気の抜けた顔をした。
「レダ・ディクソンの妻でーす! ミナのお姉ちゃんでもあるのよぉ!」
マーゴットはしばしルナを凝視した後、レダを見て、またルナを見てから、レダを見た。
「――ロ……いえ、なんでもございません。とてもお似合いのおふたりですね」
「今、大きな誤解をされましたよね? 久しぶりの誤解にちょっと動揺しながらも、ルナは成人した女性であると言っておきます。……年齢差があるのは自覚していますが」
「いえ、愛に形はございません。失礼なことを言いかけてしまい申し訳ございません」
「ははは、慣れています」
苦笑するレダに、マーゴットもぎこちない笑みを浮かべた。
そして彼女はミナに目線を向けると、ゆっくり近づき目線を合わせるように膝を曲げる。
「ミナさん、息子のことをいつもありがとうございます。そして、今後もよろしくお願いしますね」
「うん! エンジーは私がちゃんと面倒見ます!」
「ふふふ、頼もしいですね」
笑顔を浮かべるミナの頭をマーゴットは優しく撫でる。
そして、少々厳しめな目をエンジーに向けた。
「ミナさんはこう言ってくれていますが、あなたもいい大人ですからほどほどに」
「……はい、頑張ります」
和解したてではあるが、幼女に面倒を見てもらっている息子に一言言いたいのは親としては仕方がないことだった。
「――では、皆様。本当にお世話になりました。すぐにまたお会いすると思いますが、今日は失礼いたします」
改めて感謝を述べたマーゴットは深々とお辞儀をしてから、馬車に乗った。
聖騎士を護衛につけた馬車は教会を出ていく。
見送っていたレダたちは馬車が見えなくなると、ふう、とようやく肩の力を抜いた。
「よかったね、エンジー! お母さんと仲直りできて!」
「――はい。これもミナ先輩と皆さんのおかげです。どうもありがとうございました!」
今日のエンジーの表情は、今まで見た中で一番晴れやかった。




