125「母と息子」②
「僕は、王都に戻りません。レダ先生とミナ先輩、そして皆さんと一緒にアムルスで治癒士として頑張ります。お母様が僕のために考えてくれていたことは嬉しいですし、感謝しています。でも、僕には早いです」
エンジーははっきりと言った。
おどおどすることなく、マーゴットの目を見て決意を込めた声だった。
「――そう、そうよね」
マーゴットは感情的になることはなく、息子の答えを予想していたように頷いていた。
「僕はレダ先生のことを心から尊敬しています。レダ先生のような治癒士になりたいんです。それに……気弱な僕を受け入れてくれたアムルスに恩返しもしたいです。ローデンヴァルト辺境伯にも冒険者ギルドの皆さんにも、ずっと一緒にいてくれた親友にも、仲間にも、ディクソン家の皆様にも、そして僕を気にかけてくれるミナ先輩にも、たくさんの人に恩返しをしたいんです」
だから、とエンジーは続けた。
「僕は前に進みます。これから傷ついても足を止めずに、踏ん張って歩いて行きます。逃げるのをやめて、頑張ります。そして、自分の目指す治癒士になれたら、その時はお母様のご好意に甘えさせてもらうかもしれません」
「――エンジー、あなた」
「それに、王都に戻らないといいましたが、それは治癒士としてです。エンジー・ライリートとして、お母様の元へ顔を見せに帰ってくるつもりです。家族として離れていた時間を取り戻したいと思っています。……その、もちろん、お母様さえよろしければ、ですけど」
背筋を伸ばしていたエンジーが少しだけ自信なさげに背を丸めてしまう。
そんな背中に、隣の椅子に座っていたミナがそっと手を添える。
エンジーは再び背筋を伸ばした。
「エンジー……嬉しいわ。大歓迎よ。私はてっきり、ここであなたとの縁が切れてしまうのではないかと思っていたのだけど、家族としてやり直してくれるのね?」
「縁を切るなんてそんな! 僕は……お母様と、お父様、お兄様たちとやり直したいんです。今さらと思われてしまうかもしれませんけど、頑張っている姿を見てほしいですし、いつかは僕の姿を見て安心してほしいと思っています。だから、家族としての時間を少しずつでいいので取り戻させてください!」
エンジーは「今」だけを考えていなかった。
彼の考えたことは「これから」だ。
母との仲違いが今日で解決しても、家族としての形を取り戻すことができない。
だからこそ、エンジーは決めたのだ。
アムルスでレダに師事を続けながら、王都に時々帰ってきて家族との関係も改善させていく。
レダたちと出会い、アムルスで大きく成長したエンジーは治癒士としての自分と、家族との関係の両方を選んだのだった。




