121「母親と母親」②
マーゴットの動揺は続く。
我が子エンジーと少し歩み寄れた余韻が吹っ飛ぶほど、衝撃があった。
(――聖女様に子供がいるという発表はないわ。でも、いると言う。嘘をつくメリットなんてない。でも、ミナさんは先ほどひとりで彷徨っているところをディクソン殿に助けてもらったと……どういうこと? それに、聖女様がアムルスにいたということは、エンジーとも接点があったということ……何が何やら)
「ふふふ、急に色々なことを言われてしまっても困りますよね。少し、お話をしましょう」
「……はい。ああ、申し訳ございません、聖女様、どうぞお座りください」
「ありがとうございます」
マーゴットはとりあえず、いつまでも聖女を立たせているわけにはいかないので座ってもらった。
何度か深呼吸を繰り返し、微笑むディアンヌに口を開く。
「お尋ねしたいことは山のようにあるのですが……」
「何から聞いていいのかわからないですよね。では、順番にお話しをしていきましょう」
「……お願いします」
「まず、先ほどのお話にご一緒した少女ミナ・ディクソンはわたくしの血をわけた娘です。事情があり、離れていたのですが最近ようやく一緒に暮らせることになったのです」
「ディクソン殿は、聖女様の代わりにミナさんをお育てに?」
「レダ様がミナを家族として迎えてくださったのは少し前のことです。ミナと、もうひとりいた少女ルナは母こそ違いますが仲の良い姉妹です。事情があって辛い境遇にありましたが、レダ様によって救われました」
「……事情に関しては聞きません」
「ありがとうございます」
「ミナさんが聖女様の御息女で、ディクソン殿の家族であることはわかりました。聖女様が一緒にアムルスで生活していたことも、その、よく教会が許可をしたとは思いますが、はい」
「ふふふ、教皇様は……わたくしの父親のような……わたくしは父だと思っていますので、甘えるのが上手いのです」
聖女が教会から離れて辺境の地で生活しているなど稀だ。
教皇ウィルソンは、後ろめたいことが一切ない人物で、教会の浄化を行い王宮との関係も改善させた傑物だ。
そんな教皇の知らない一面を知った気がした。同時に、ウィルソンはエンジーのことを気にかけてくれる一人でもあった。教皇と、ウィルソン個人ではまた違う人間なのかもしれない。
「わたくしの方が一足先にアムルスで生活を始めました。とても良い街です。いずれ辺境の地ちとは言われなくなるでしょう。ダンジョンが見つかり、自然と人も集まってくるでしょう。数年すれば、大きな都市になるとわたくしは考えています。だからこそ、タイミングがよかったと思っています」
「……タイミング、ですか?」
「はい。アムルスは教会からも、王家からも期待されています。冒険者と治癒士がいて、勇者までいるのです。マーゴット様が、短慮なことを踏みとどまってくださり本当によかったです。エンジーのお母上と敵対したくはなかったのです」
調べていたことも、強引な手段にとることも考えていたことも、全てばれている。
そう察したマーゴットは嫌な汗をかいた。
マーゴットさんは危ういことを考えてはいましたが、実際にやるかどうかは別でした。
ちなみに、ディアンヌさんは本当に良かったと思っているだけで、別に「あなたの考えはお見通しです」と釘を刺しているわけでも、脅しているわけでもないのです。
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