120「母親と母親」①
マーゴット・ライリートが小休憩用に与えられた部屋を開くと、聖女ディアンヌが出迎えた。
「お疲れ様でした、マーゴット・ライリート様。お茶と軽食をご用意してあります。如何なさいますか?」
「聖女、ディアンヌ様!?」
「はい」
「なぜ、ここに」
教会に足を運んだことは何度もあるマーゴットだが、聖女ディアンヌは挨拶を何度か交わしただけでしかない。
レダたちの感覚で、王都の住まう人々は、貴族を含めて聖女と気安く接することはできないのだ。
聖女の力が必要な時に力を借りることはあっても、言葉を交わす機会は少ない。
定期的に行われる「祈りの日」でも、遠目に見ることができるくらいだ。
ここ数年、聖女と教会関係者以外の距離はより遠くなったこともあり、マーゴットの控え室に聖女がそれも長年聖女として活躍してきたディアンヌが待っているなどとは夢にも思わなかった。
「お手伝いです。と、言ってもあまり大したことはできませんが、マーゴット・ライリート様のお心に寄り添いたいと思い馳せ参じました。まずはお疲れでしょうから、どうぞお座りください」
「いえ。聖女様がいるのに座るわけには」
「ふふふ、お気になさらず。そうですね、では、聖女ではなくミナ・ディクソンの母親としてわたくしと接してください」
「――――え」
普段することない、驚きで間の抜けた声を出してしまった。
すぐに聖女の前だと思い出し、佇まいを整える。
「ささ、お座りになってください」
促されてソファーに座る。
テーブルの上に暖かいお茶と、サンドイッチの盛り付けられた皿、フルーツが入った皿が聖女によって並べられた。
「わたくしも座ってよろしいでしょうか」
「も、もちろんです。どうぞ」
「ありがとうございます」
にこやかな聖女を前に、マーゴットの困惑は続く。
大金を寄付しても会うことができない聖女に、息子と話し合いにきたマーゴットが会える理由がわからない。
聖女がミナ・ディクソンの母だと言ったが、そこも理解できいない。
いや、言葉通りなのだろうが、それはそれで理解に苦しむ。
ミナのことはよく覚えている。
彼女の一言があったおかげで、心の中に抱え込んでいた感情を言葉のすることができたのだから、感謝している。
「――っ、まさかあの子は聖女様とディクソン殿の子供なのですか」
「ふふふ、違いますよ。ミナにとって、父親はレダ様であり、母親はわたくしですが、わたくしとレダ様の間に男女の関係はございません」
そう言う聖女ディアンヌの表情は幸せそうに見えた。
なぜだろうか、レダという名を口にする時、聖女の笑みが増すのだ。
きっと何かあると思いながらも、深追いすることはしない。
教会を敵に回すことなどあってはならないのだから。
「あまり緊張しないでください。わたくしはただ、同じ母親として、あとはエンジーくんのアムルスでの日々を知る者としてマーゴット・ライリート様のお力になれればと思っているのです」
「聖女様、もしや、あなたは」
「はい。わたくしも先日までアムルスで暮らしていました」
マーゴットは何度目かわからない衝撃を受けた。
ディアンヌさんは駆け引きなどはできないので、基本的にガンガン行こうぜ、です。
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