118「マーゴットの想い」①
背筋をピンっと伸ばしたエンジーにマーゴットは動揺を隠せないでいた。
「エンジーのおかあさん」
「は、はい」
「何度でも、同じことでも、ちゃんと言いたいことは言ったほうがいいよ。わたしも、そうしてもらったから。たくさんお話ししてほしい。エンジーも怒るんじゃなくて、どうしたいのか、何を思っているのか、ちゃんと言わないと!」
ミナのよく通る声に、大きく息を吸い口を開いたのはマーゴットだった。
「……お嬢さん、いえ、ミナさんの言うとおりね。私が言いたいことばかりを言ってしまい、ごめんなさい、エンジー」
「……いいえ、僕こそ、感情的になりました。すみません」
マーゴットが歩み寄ると、エンジーも邪険にはしなかった。
「エンジー、ごめんなさい。何を謝ればいいのかわからないけれど、きっと私は間違っていたんだと思うわ。今、謝らなければ、きっとここであなたとの縁が切れてしまうと思うの」
「……僕こそ、ごめんなさい。ずっと、連絡もせず、家を出ていて。でも、縁を切りたいとまで思ったことは……多分、ないです」
「そう。よかったわ。あのね、エンジー。私はね、あなたに幸せになって欲しいの。親だから、それだけしか考えていないのよ」
「でも、僕は――」
エンジーは言葉を探し、止まってしまった。
口を挟まぬ見ていたレダが思うに、母親がエンジーの幸せを願っていると言われてどう返せばいいのかわからないのだと思う。
エンジーは金銭に潔癖なところがある。
過去の話を聞く限り、母親が利用していたというよりも、友人と思っていた子たちにタダで治療をしてくれるだけの人間としか思われていなかったことの方が心の傷になっていると思われる。
その証拠に、母親が幼いエンジーが治療した人からお金を取ったのではなく、患者が感謝の気持ちでお金を渡したということがわかりながらも、態度は頑ななままだ。
エンジーを友と偽り、利用した人間がこの場にいないせいで、エンジーの感情は母だけに向かってしまっている。
――それは良いことではない。
「エンジー、私が王都にあなたを戻って来てほしいのは、家族としてやり直したいからなの。お金など余計なことを言わなければよかったわ。あなたのために、診療所を開いて、あなたの活躍を見て、立派になったあなたを見たかった。ただ、それだけなの」
「……お母様、でも、僕はアムルスにいたいんです」
「――そう」
「アムルスでたくさんの人に助けてもらいました。救われて、変われました。だから、恩返しをしたいんです」
エンジーは己の心中を母の目を見て告げた。
「僕は、レダ先生のもとでもっと学びたいです。ルルウッドたちとももっと一緒にいたいです。ミナ先輩たちとも離れたくありません」
「それでいいのかしら?」
「僕は、後悔しません」
ふう、とマーゴットは大きく息を吐いた。
ため息ではない。
感情を制御するためのものだ。
「本当はね、もっと言いたいことはあるし、言うべきこともたくさんあるの。でも、母親としてこう言わなければいけないことはわかっているわ」
マーゴットは、決意に満ちた顔をしていた。
「――頑張りなさい、エンジー。私は、心からあなたのことを応援しているわ」
もちろん、マーゴットの本心はいろいろありますが、応援している気持ちも本心です。
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