114「マーゴットとの話し合い」③
「お金がなければ食べることも、まともな生活もできないわ。エンジー、お金に不自由をしたことがないから、対価が笑顔だけでいいなどと夢のようなことが言えるの」
「――そんなこと」
「たとえば、貧しい暮らしをしながら、心が荒むことなく善人でいることができるというのなら話は別よ。そういう人は素直に尊敬できるけど、私には無理よ。我が子に貧しくとも笑顔があればいいなんて生活はさせたくない。お金もあったら何がいけないというの?」
「それは……」
エンジーは口籠る。
金があった方がいいということくらいエンジーにもわかる。
だが、どうしてもエンジーには母が金に重きを置きすぎているようにも見えるのだ。
幼い日、優しかった母が金の話ばかりしている姿を見てしまったせいかもしれない。
幼心に、普段の母と、金が絡む母が別人に見えて怖かったのだ。
「エンジー、ちゃんと聞いて。私もあまり人付き合いは上手くないから、何をどう伝えればいいのかわからないことばかりだけれど……親として、家族として、あなたのことを心から愛しているわ。息子の才能を利用してのしあがろうなどと考えたことはないの。ただ、あなたのために、あなたの才能がきちんと発揮できる場所を提供させて欲しいの」
「それで、支援、ですか?」
エンジーの代わりにレダが尋ねる。
レダには、金といいながらも、結局のところマーゴットはエンジーを手元に置いておきたいだけなのだと思う。
我が子が可愛いのは当たり前だ。
時に、血のつながりのある我が子に酷いことをする親がいるが、レダからすると、そんな人間は親ではない。
マーゴット・ライリートは、親に見えた。
「はい、支援です。私は、ディクソン殿に感謝をしています。善意には善意を、悪意には悪意を返していくのがマーゴット・ライリートです」
「お話はわかりました。ただ、情けない話ですが、俺は一年前まで金がなく、それでいながら通りすがりの人に治癒をしてしまうような人間でした」
「――――っ、そのようだったと聞いております」
「だからこそ、お金の大切さはわかっているつもりです。俺も親です。娘にいいものを、妻にいい暮らしを、と考えない日はありません」
「――でしたら」
「そして、俺にもあなたの同じように、善意には善意で行動をしています。ローデンヴァルト辺境伯は私たちを受け入れてくれました。定住することができる地をくれました。その恩返しは生涯をかけて行います。ですから、王都で診療所を開くことはまずありません」
「そう、ですか」
「はい。王都には王都の治癒師がいます。その方々が治癒士として善性を持って患者と向き合うことを、俺は祈っています」




