113「マーゴットとの話し合い」②
「――支援、ですか?」
尋ねたのはレダだった。
「はい。ディクソン殿が働く診療所はローデンヴァルト辺境伯の持ち物です」
「もちろん、理解しています」
「ディクソン殿の実力は王都まで轟いております。そんなディクソン様であれば、王都で診療所を開くことも問題ないでしょう。今でも、高額な治療費を請求する治癒士は減りましたがいます。そんな実力もないのに金は欲しい愚か者たちを排除するためにも、ディクソン殿の影響は大きいのではないかと思っています」
「――お母様!」
マーゴットの提案に対し、誰よりも早く声を荒らげたのはエンジーだった。
まさかエンジーが大きな声を出すとは思わなかったのだろう、マーゴットは驚きを隠せないでいる。
「お母様……あなたはまたお金ですか!?」
「お、落ち着きなさい、エンジー」
「無理です! お母様は、僕が子供だった時、善意で治療した人たちからお金を取っていました! そのことを知った時、僕がどれだけ傷ついたからわかりますか!」
「エンジー、落ち着きなさい。私は、そこがわからないの」
「――え?」
「あなたの善意は素晴らしいわ。治療した人も喜んでいた。その上で、無理のない範囲で治療費を支払ってくれたのは、感謝の印とエンジーへの正当な評価よ。私が払えなどと言ったことはないし、もっと金をよこせなどとも口が裂けても言ったことはないわ」
「お金を得たことをずっと黙っていたじゃないですか!」
「子供のあなたにお金を渡してどうなるの? 不自由のない生活をさせていたわ。……確かに、商家を大きくするのにいただいた治療費を使ったことは認めるし、申し訳ないと思うけれど、それだって家族が困らないためにしたことよ。お金だって、盗んだわけではないの」
「……お母様、そもそも僕はお金を欲したわけじゃないんです。ありがとう、と言ってもらえただけでよかったんです」
「……あなた、何を言っているの?」
マーゴットは心底わからないという顔をした。
「正当な報酬をもらうことの何が悪いの? 感謝の言葉だけで、何になるの?」
「……お母様、あなたこそ何を言っているんですか?」
エンジーもマーゴットに向けて、心底わけがわからないという顔をする。
「あのね、エンジー。お金がすべてとは言わないわ。お金よりも大事なものはあるでしょう。でも、その大事なものを手に入れるのに、お金は必要なの」
「……ですから、そう言う考え方が」
「いえ、聞きなさい」
マーゴットは有無を言わさぬ低い声を出す。
感情のまま声を大きくしていたエンジーが気圧されてしまう。
「エンジー、あなたが家を出て行った時はまだ子供だったわ。きちんと保護もしてもらっているし、信頼できる方だったから見守ることにしたわ。その後、頑なにあなたが私を拒むとは思わなかったけれど、もうここまでにしましょう。あなたも成人した立派な大人です。綺麗事ばかりを言わず、現実を見なさい」




