111「ライリート親子」④
マーゴットとの出会いによって、レダたちはあまり買い物という気分ではなくなってしまったので教会に戻ることにした。
無論、怒っているわけではないし、不機嫌になったわけではない。あくまでも、エンジーが心配で買い物などしている場合ではないという気持ちだった。
話をする場所は、午後から教会にした。
エンジーの母が、何かしてくる可能性は少ないが、万が一ということもある。
エンジー自身もまったく母親と関わりがなかったので、何をしてくるのかわからない。何もないかもしれないし、あるかもしれない、どういうことをするのかしないのかまったく予想ができないらしい。
何よりも、マーゴットが借金を返せなくなった男たちから命を狙われている姿を見てしまったことで、エンジーの中に母への不信感が強くなってしまったのだ。
話し合いをする時間を少し空けたのも、エンジーに落ち着いてもらうためもある。
何よりも、マーゴットも襲われたままでは嫌だろう。身支度を整える時間が必要だ。
幸い、暴漢たちを捕縛した騎士たちが彼らと共にマーゴットを送り届けてくれた上に、教会まで連れてきてくれるというのでお言葉に甘えることにした。
午後からは忙しくなりそうだ、と考えるレダにミナが不安そうな顔をしていたが、事情を隠さず説明すると、なぜか緊張したように身を強張らせてしまった。
レダは、人が襲われる話をしたから怖くなってしまったのかな、と己の口の軽さを反省したが、ルナはなぜかにんまりした顔をしている。実に不思議だ。
教会に着くと、教皇ウィルソンが出迎えてくれた。
「お帰りなさい。話は聞いています、お疲れ様でした」
「ウィルソンさん、すみません、少し教会のお部屋をお借りしたいと思うのですが」
「もちろんです。私としても、そろそろエンジーはお母上と向き合うべきだと思っていました。以前のエンジーはまだ早いと思っていましたが、今のエンジーならば大丈夫だと信じています」
ウィルソンの優しい笑顔がエンジーに向く。
不意に母と会ってしまったエンジーだったが、今は動揺はなく、瞳に強い意思が宿っている。
エンジーは、ウィルソンに向かい深く頷いた。
今の彼ならば、母親ともしっかり向き合えるだろうと思う。
同時に、疑問もあった。
(――あまりマーゴット・ライリート様個人の話は聞いていなかったけど、息子を金儲けのために利用するような人なんだろうか?)
レダにとってマーゴットは初対面の人間だ。
事前に話を聞いても、第一印象は悪くなかった。
金を借りて返さず、開拓地に送られていたのも彼らの自業自得だ。
話を聞く限り、マーゴットは悪くなかった。
ただし、レダは自分がお人好しである自覚はある。甘いことも嫌なほど理解している。それゆえに、人の裏側まで見極めることができないのだ。
ふう、と大きく息を吐く。
できることなら、エンジーとマーゴット、そしてライリート一族がうまくいきますように。
そう思わずにはいられない。
同時に、もしもマーゴットが悪人であれば、全力で家族であるエンジーを守る決意をレダはしていた。




