110「ライリート親子」③
「お、お久しぶりです、母上」
「ええ、久しぶりね、エンジー」
背中を叩かれ、勇気を出したエンジーが母に挨拶をした。
一度は「お母様」と呼んだが、今は「母上」と呼び直している。心情的に、思うことがあるのだろう。
エンジーもマーゴットも緊張したように、表情を強張らせている。
見ている方が緊張してしまう空気が流れていた。
しかし、これでいいのだ。
母親を前に、何も話せないのではいけない。
ぎこちない挨拶だろうと、相手の顔を見てできたのだから、大きな成長だ。
ただ、色々な人から話を聞いたマーゴット・ライリートは想像していた反応と違った。
もっと苛烈な方だと思ったのだが、常識がある女性だった。
「――ディクソン殿、彼らを拘束しました」
「ありがとうございます、助かりました」
レダたちの護衛をしてくれていた騎士たちが、マーゴットを襲った暴漢たちを拘束してくれたおかげで会話に集中できた。
すでに目を覚ましている人間もおり、血走った目をしてマーゴットを睨んでいる。
さらに何かを叫んでいるのだが、布を噛ませられているのでわからない。
すると、騎士が叫び続ける男を気絶させた。
「失礼しました。万が一、声が漏れるのはよろしくないので、少々手荒な真似をさせていただきました」
「いえ、お気遣いどうもありがとうございます」
「彼らはどうしましょうか? 教会でも構いませんが、騎士団に突き出すこともできます」
「――あの」
マーゴットが申し訳なさそうに騎士に声をかけた。
「彼らは、私のお客様なのです。もっとも、借金を踏み倒そうとして私を亡き者にしようとしましたが……」
「そうでしたか。では、あなたの店に連行した方がよろしいですか?」
「そうしていただけるとありがたいのですが……謝礼はいたしますので、彼らを引き取って構わないでしょうか?」
マーゴットは騎士たちの次に、ルナとヒルデを伺った。
暴漢たちを倒したのはふたりなのだから。
しかし、当の二人はあっけらかんとしていていた。
「あたしぃ、そんなおっさんたちいらなーい! 謝礼なんかもいらなーい!」
「私も特に必要としない。困っている人を助けた、ただそれだけの話だ」
「……ありがとうございます」
深々とマーゴットはルナとヒルデに頭を下げた。
「重ねて、お願いをしたいのですが……レダ・ディクソン様」
「……なんでしょうか?」
名前を知られていることは今さら驚かない。
金があり、力もあるマーゴットが息子の近くにいる人間を調べていない方がおかしいのだから。
「エンジーと話をさせていただくことはできませんか? 今日は、エンジーに、息子に会うために……」
レダはエンジーを伺った。
ルルウッドの腕を掴んで、少し震えている。
それほど母が恐ろしいのか、それともまた何か別の感情があるのか。
事情は聞いているが、エンジーの心の中まではわからない。
「どうする、エンジー?」
すまないと思ったが、当事者の意見を尋ねてみた。
エンジーはレダの顔を見た。
瞳には動揺が見え隠れしているが、意思も感じ取れた。
「ぼ、僕、話を、します。すべき、だと思います」
「――わかった。頑張ったね、エンジー」
優しい笑みを浮かべ頷いたレダに、エンジーも頷き返してくれた。
レダはマーゴットに向く。
「お話をしましょう。ですが、俺も立ち会わせていただきます」
「――ええ、ぜひディクソン様に立ち会っていただきたいと思っていました」




