109「ライリート親子」②
エンジー・ライリートは苦しげな顔になった。
無理もない。
自分を金儲けに利用し続けた親が目の前にいるのだ。
家を出奔した後、神父に助けられ、親友のルルウッドとその家族に世話になった。
何度も会いにくる家族からずっと守ってもらっていたのだ。
家族には家族の、何か理由があったのだが、まだ子供だったエンジーが受け止めることはできなかった。
耳を塞ぎ、目を塞いで、家族を遮断する他、自分の心を守る手段がなかったのだ。
そして、一度逃げてしまったことで逃げ癖がついてしまった。無理難題から逃げてしまいたいという衝動に何度も襲われ、逃げてしまった。しかし、助けてくれる友が、仲間がいた。
ルルウッドたちだ。
共に学び、寝食を共にした大切な仲間たちのおかげで、物事から逃げ出す悪癖の大半は乗り越えられるようになった。
それでも、まだ何かにぶつかると逃げたいと思ってしまうことがある。
そんなエンジーを、今は仲間たちだけではなく、レダをはじめとした自分のことを家族だと言ってくれる人たちがいる。アムルスという温かな街がある。
――そして、まだ感情の名前をうまくつけることはできないが、ルナ・ディクソンがいてくれた。
だからこそ、災厄の獣に立ち向かうことができた。
だけど、今回ばかりはさすがに逃げ出してしまうかもしれない。
呼吸が止まってしまったエンジーは足が震えていた。
「そうだぁ! エンジーの家名がライリートだったわぁ! って、お母さんなのぉ!?」
「……はい。息子がお世話になっている皆様に、命まで助けていただくとは思いませんでした。重ねてお礼申し上げます」
「いいの、いいのぉ。ていうか、こいつらは結局なんなわけぇ?」
「借金を踏み倒そうとした者たちです。返済期限をとうに過ぎていましたので、焦ったのでしょう。残念ですが、よくあることです」
「じゃあ護衛くらいつけなさいよぉ」
「お恥ずかしい限りです。普段は護衛をつれているのですが、今日は、その目立ちたくなくて。結果的に、ご迷惑をおかけする形になりました」
ルナがちらり、とエンジーを見た。
母親を前に、怯えて縮こまっている。
ミナがいれば、優しく声をかけてくれたのだろうが、生憎ルナがそんなことをできる男性はレダひとりだけだと決まっている。
それでも、将来義弟になる可能性のある青年の怯えている姿を見ているのは面白くない。
不意に、レダと目があった。
どうやら考えていることは同じらしい。
さすが最愛の夫だ。
「――ほぉら、しゃんとしなさいよぉ!」
「――エンジー、俺たちがいるよ」
夫婦で揃って、母の顔をみることができないエンジーの背中を強く叩いた。




