106「襲われている人」①
「――じゃあ、移動しようか。ちょっとだけ俺もドキドキしているよ。まず行こうと思ったことのない商店だからね」
年甲斐もなくワクワクしてしまう。
もう武器は必要なく、何方かと言えば徒手空拳が得意で、魔力の多さで魔法でゴリ押ししてしまうレダであるが、冒険者をはじめた頃に憧れた煌びやかな高級武器を今は全く興味ないと言ったら嘘になる。
「やったー!」
「わ、わたしも武器ほしいかも!」
「ミナ!?」
「私も武器が欲しいな。ショートソードや、ナイフだな。別に業物である必要はまったくないのだが、集落に戻った時にドヤ顔をしたい」
「ヒルデまで」
できることなら、ミナだけではなく家族に武器を持たせるのはどうかと思うが、ルナもヒルデも防衛のために武器を持つことは当たり前のことだ。
アムルスの街の治安がいいので勘違いしそうになるが、この世界は冷たく厳しく恐ろしい。
レダとミナが出会った時だって、彼女は極限の状況にいたのだ。
いつ誰が、どこで、悪意をむき出しにするのかわからないのが怖い。
(……あまりマイナスなことを考えないようにしよう。つい、悪い方に考えてしまうのは俺の悪癖だ)
わかっているが、神経質というか、不安に弱いというか、レダは冒険者になってからいつもマイナス思考だ。
たまにそんな自分が嫌になるが、それでもできる限り前向きにいようと思えるのは間違いなく家族のおかげだった。
会計を済まし、止まっている馬車に向かおうとした時、ヒルデが長い耳をぴくりと動かし、ルナとミナがレダの服を掴んだ。
「ヒルデ? ルナ? ミナ? どうしたの?」
「楽しい時間に水を差すのは本意ではないが――誰かが襲われている」
「そうね、全力で走っているけどぉ、そろそろ追いつかれそうかなぁ」
「う。うん、男の人が怖いこと言っているよ!」
「――え?」
レダは耳を澄ませてみるが、王都はいつもの音だ。
人々の行き交う音、声。
この通りは比較的静かでさえある。
自分だけが聞こえないのかと思い、レダはエンジーたちを見る。
「えっと、僕には何も」
「すみません、私にも聞こえません」
「私も、その」
エンジーたちが首を横に振ったが、レイチェルだけが違った。
「私にも聞こえる! ――ごめんなさい、気づいてしまったら無視できない」
そう言って走り出してしまう。
「お姉様!?」
シュシュリーが手を伸ばすが、レイチェルに触れることができなかった。
「あたしたちも行くわよ!」
「もちろんだ!」
「ちょ、ルナ、ヒルデ!」
ルナとヒルデが疾風のように疾走する。
もちろん、レダに追いつけるわけがない。
「わ、わたしも」
「さすがにそれは駄目!」
勢いに乗ってしまったのか、ミナまでが走り出しそうだったので、レダは慌てて抱き抱える。
「レダ先生、さすがにここで待っているのもどうかと思います。私も攻撃魔術は使えますし、エンジーです。レイチェル殿も素晴らしい魔術師ですから……ごろつき程度ならば問題ない、と思います」
「うん、わかっている。だけど、ミナとシュシュリーは……」
「我々が責任を持ってお預かりします」
そう言ってくれたのは馬車の御者だった。
「しかし、私は護衛を兼ねています。他にもウィルソン様の命によりレダ様たちを見守っている人間がいます。ルナ様、ヒルデ様、レイチェル様の後をすでに仲間がおいかけています」
「――なら、お願いします!」
「はっ、お任せください! 命を賭してお守りします!」
「ミナ、すぐに戻ってくから、馬車の中にシュシュリーと一緒にいてほしい。いいね?」
「……うん」
「ありがとう。すぐに戻ってくるから」
ミナを強く抱きしめ、馬車の中に。
深々と礼をしてくれる御者に、レダも礼を返した。
「おとうさん、気をつけてね!」
「――ああ!」
治療が必要な可能性もある。
レダとエンジー、ルルウッドはルナたちを追った。




