99「レダ、懐かしむ」②
「どうしましたか、レダ先生?」
物思いに耽っているレダに不思議そうな顔をするエンジー。
「冒険者時代のことを思い出していたんだ。こうして王都に戻ってくると思うことはたくさんあるんだよ。――といっても、まだ王都を出てから一年も経っていないんだけどね」
「……実は僕も同じで、ちょっと昔のことを考えちゃいました」
「エンジーも?」
「はい」
「実は私もです」
「ルルウッドも?」
「ええ、お恥ずかしながら、王都から離れて戻ってくると何かしら感慨深くなってしまうようですね」
レダだけではなく、エンジーとルルウッドも王都の日々が懐かしく感じるようだった。
みんな一年も王都から離れていないのに不思議だと顔を見合わせて笑う。
「レダ先生は王都でどのような暮らしをしていたんですか?」
そういえば、自分の冒険者時代の話をしたことがなかったことを思い出した。
ただ底辺冒険者だった、としか言ったことがない。
家族たちには詳細――と言っても、さほど語ることはないが、話をしてある。
まだミナたちの試着に時間がかかるようだから、いい機会かと思った。
「エンジー、失礼だぞ」
「あ、すみません」
「いいよ、いいよ。別に隠すことではないし、もしかしたらここ王都で知ることもあるだろうからさ」
新しいお茶の支度をしてくれていた店員の男性が気を利かせて離れようとしたが、レダは問題ないと止めた。
聞かれて困る話ではない。
ただ、レダ自身が己のみっともない話をするだけなので恥ずかしいだけだ。
その程度の話で、仕事を止めさせるのも申し訳ない。
「あの、本当にいいんですか?」
「お話辛いことを無理して話すことは」
「気遣ってくれてありがとう。でもね、俺のことなんて本当に大したことはないんだよ。冒険者だったのは知っているよね? だけど、俺は底辺冒険者でね。治癒の力を使えることだって、全くすごいことだなんて思っていなかったからさ。パーティーにお荷物だと言われて、腐って酒浸り。だけど、誰かに認めて欲しくて、誰かのためにないかしたくて、傷ついた人を見つけてはヒールをかけていたよ」
「シュシュリーとレイチェル様の件も?」
「そうなんだ。だから、恥ずかしい話、きちんと覚えていないんだ。人生が暗い時っていうのは本当に嫌だよね。余計なことに首を突っ込んで、勝手なことをする」
「しかし、レダ先生の行動で救われた人がいます」
「ありがとう。ルルウッドにそう言ってもらえると、やっていた甲斐もあったよ」
自棄になっていたわけではない。
それでも、真摯に向き合ったわけでもない。
だから、少し恥ずかしい。
「あの、レダ・ディクソン様。お顔を見た時から、ずっと思っていたのですが」
「はい?」
店員の男性が、目を丸くして震えた声でレダの名を呼んだ。
「……二年前、妹を庇い腕を失いかけた私を助けてくれたのはレダ・ディクソン様ではありませんか!?」
もしかすると、身近にもレダが救った人がいるのかもしれない。




