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02

 ブライアン王のおかげで晩さん会の居心地は良かった。こんなこと、この世界に来て初めてだった。多くの人と話しが出来たし、名前も知った。


 晩さん会は盛況で、終わる雰囲気を見せなかった。名残惜しい気持ちもあったが、俺は早々に退散することにした。やることがあったからだ。


 酔いが回る前がいい。先に引き上げることをブライアン王から許しを得て、晩さん会を退席した。


 歩いているといつの間にか真っ直ぐな廊下に俺一人だった。晩さん会で廊下の行き来はひっきりなし、右往左往していた。だが、なぜかパタリと止んだ。


 案の定、人の気配がした。俺を追うように廊下を進んできている。リーマン・バージヴァルとその従僕の姿だ。キースの叔父で、イーデンの弟。いつもと変わらないピンと伸びた背筋で、腕を後ろに回し、従僕を従えて歩いていた。


 晩さん会では、俺の席は大広間の両サイドにあった長いテーブルの誕生日席だった。リーマン・バージヴァルはもう一方の誕生日席に座っていた。


 前王アーロンの側近であり、宮廷内にスパイ組織を張り巡らせている。今は隣国ユーアの王太子リーバー・ソーンダイクにピタリと張り付いていた。ブライアンを王とは認めていない。俺が晩さん会を辞したのを見て、席を立ったのであろう。何か魂胆がある。


 シーカーに会うため、俺たちはブライアン王の戴冠式の日に旅立った。その前夜、今回のようにふらっと現れて、エリノアの情報を俺にもたらした。エリノアはエトイナ山行きのメンバーに、全て自分の身内をあてている。


 何だろうか。今度もおそらくはエリノアだろう。そうであったなら、俺も聞きたいことがある。


 リーマンはお気に入りのフットマンをその場に留めておいて自分一人が俺に近付いて来た。俺たち二人っきりだ。おそらくはスパイである宮廷の従僕たちにいい加減なことを言わせて、この廊下に人を立入れさせないように仕組んでいるのだろう。


「また戻らないといけませんから単刀直入にお伺いしますが、陛下がおっしゃったこと、本当ですか」


 ブライアン王は皆の前で、エトイナ山への第一陣は明後日みょうごにちと宣言した。その際、俺が今日まで準備に動いていたことも告げていた。


「本当ですかとは?」 変なことを聞く。「明後日では早すぎるってことか?」


 執政デューク・デルフォードが大々的に式典を行うって言っていた。明後日では時間がないってことか。


 分かってない。さすがなのはエリノアだ。シーカーとの待ち合わせ場所は龍哭岳りゅうこくだけと聞いて即座に判断した。


 そこはユーア国とチアナ国の境界にある。ハロルドの話だとここから千三百キロほどの距離だ。歩兵の行軍なら一日三十キロが目一杯だろう。騎兵のみなら移動速度は一日四十から六十キロが目安となる。


 出発が明後日なら、二十四日で千三百キロを走破しないといけない。一日の移動速度は約五十四キロだ。結構、厳しい。明後日では遅いくらいだ。


 式典を派手にやりたいデルフォードを好きにやらせておいたら、準備にどれだけ時間がかかるか分かったもんじゃない。それでブライアン王に公衆の面前で言わせた。デルフォードとしても陛下に言われれば急ぐほかあるまい。もしかしてリーマンも派手にやりたかったというのか。


「いいえ。わたくしが申し上げているのはそう言うことではございません。前に申し上げましたと思いますが、エンドガーデンの王族で近々十八となる男子は三人、順にロージニア、チアナ、ユーアと」


 そういやぁ、そんなこと言っていたな。あれはアーロンを皇帝にする云々(うんぬん)の時だったか。


「いまやロード・オブ・ザ・ロードは消え失せたと聞き及びます。殿下はどうやって行くおつもりですか」


 リーバー・ソーンダイクに聞いたのか。いや、俺に聞いて来いと言われたのかもしれん。いや、待てよ。そうか、そういうことか。


 辺境の街に注意を向けさせといて、チアナとイスランは俺を捕縛しようとしていたのかもしれない。エトイナ山への道が絶たれたんだ。王家を存続させようと思えばどうしてもエトイナ山へ行かなければならない。目的は俺だった。


 ロード・オブ・ザ・ロードがないのに、俺は人々をエトイナ山へ連れていくと言った。しかも、それはローラムの竜王の要請だときた。


 とすれば、チアナ、イスランと同じようにソーンダイクも行く方法を知りたがっている。


「このような状況なのでローレンス王は第五子ルイス殿下の契約を急ぎましたところ、シーカーの返答はロード・オブ・ザ・ロードが失われているのでエトイナ山への移動は不可能、とのことでした」


 ローレンス王とはリーバー・ソーンダイクの親父だ。そういやぁ、転がる岩のおさ、バーデン・ハザウェイとか言ったな、あいつは、王国はもう滅ぶと言ったっけ。風の鞍のクソガキもそう言っていた。シーカー十二支族は王国を見捨てた。


「リーバー王太子の下の弟レオンシオ殿下がその目で確認に参りましたそうです。ロード・オブ・ザ・ロードは本当に失われている。そのうえシーカーも頼りにならない。お応え願いたい、殿下はどうやってエトイナ山へ行かれるのです」


 ドラゴンに乗って行くって言うのもなぁ。怖気ついて尻込みしてしまう者も出て来るかもしれない。あるいは、俺をほら吹き呼ばわりする者も出て来るだろう。


 百聞は一見に如かず。その場まで黙っていようと思ったが、こうなってしまうと言うほかないようだ。さて、どうしたものか。


 そうだ。こういうことにしよう。


「皆には内緒だったが、実はローラムの竜王が使いを出してくれる。ロード・オブ・ザ・ロードを消したのは、申し出に応えない者には報いないというローラムの竜王のメッセージでもある」


 半分嘘で、半分ホント。ローラムの竜王の衰えかもしれないが、ロード・オブ・ザ・ロードを消したってことはローラムの竜王が意志を示したってことだろ。


 かえって丁度良かったのかもしれない。現地に行っていきなりドラゴン、しかもあのジンシェンの姿。あれは確かにまずいか。リーマンが噂を流してくれれば第一陣のメンバーの耳には入って来よう。ジンシェンの姿はまぁ、しゃぁないにしろ、心の準備は出来るはずだ。


「そういうことなのですね」 リーマンが深々と頭を下げた。「疑うようなことを申しまして、お許し下さい」


「納得してくれたようだな」 もう一押ししとくか。「これは他言無用だ。まぁ、ローラムの竜王に会いに行くのに、その使いにビビるやつもいなかろう。が、念のためだ」


「はい。かしこまりました」リーマンはニヤっと笑みを漏らした。「では、ご武運を」


 ソーンダイクは当たり前にしろ、リーマンはこれ以上もない良い情報を手に入れたんだ。言うに決まってるし、噂も流してやろうって面だ。ちゃっかりエリノアに恩を売る。


「ちょっと待ってくれ、リーマン殿」


 リーマンは立ち止った。振り返って、戻って来た。


「御用でしたかな」


「俺も聞きたいことがある。前に貴殿は言ったよな。時には王太后に味方し、時には俺と同盟を組むと。俺は貴殿に情報を与えたんだ。貴殿から何もないってこともあるまい」


「これは失礼致しました」 嬉しそうな笑みを見せ、貴族風な礼をした。「知りたいことがおありなのですね。私で良ければなんなりと」


 では、お教え願おうか。


「バリー・レイズのことだ」


 リーマンの目が輝いた。待ってましたって面してやがる。






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