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 今夜は国王主催の晩餐会が催される。国軍の勝利を祝うためだ。もちろん、主役はバリー・レイズである。


 招待客は王族、それに連なる貴族たち、閣僚、国会議員、最高裁判所長官、州知事、財界の重鎮、名のある騎士等、百名を超えるという。


 やがて日が暮れると俺たちは頃合いを見計らってアジトを出た。大通りは店の明かりで照らされ、多くの人が行き交い、たむろし、酔っぱらっていた。誰も俺たちを気に止めない。俺たちのように仲間で固まって歩く者らも多くいたからだ。


 少し歩くとラース・グレンが別れの挨拶をした。あなた様とご一緒出来たことは光栄の極み、お困りのことがあれば何なりとお申し付けください、我々シーカーはどこにいようが駆け付けます、と深々と頭を下げ、人ごみの中に消えていった。


 見送って、俺たちは竜王の門へ向けて歩を進めた。ちょっと歩いてすぐにカリム・サンが近づいてきた。耳打ちするように体を寄せてきて、あれっと後ろを指さす。


 ラース・グレンが去ったのに、女戦士ら二人が俺たちの後ろに付いてきていた。おやっと思ったが、いつのまにか姿を消すのだろうと考え直し、カリム・サンには、ほっとけ、と言っておいた。


 ところが、いつまでたっても消えなかった。もう、竜王の門というところで俺たちは足を止めた。


「どういう了見だ」


 言ったのはカリム・サンだ。何で付いてくるのか、と訊きたいらしい。腹に据えかているって感じだ。


「私たちは殿下に死ぬまでついていく。おまえには関係ない」


 カリム・サンの表情が、は?となった。そして、仕事は終わったんだ、と強い口調で女戦士に言い返した。だが、女戦士らはピクリとも動かなかった。


 どうしたものかと思った。確かクレシオンの戦いで女戦士の一人を救った。彼女らはその恩に報いようとしているのか。それならば気にすることはない。立派な行動でも何でもない。助けられるから助けたまで。戦場では当たり前のことだ。


 とはいえ、犬を追い払うように帰してしまっては後味が悪い。俺たちは力を合わせて戦ったんだ。


「おまえたち、名前は?」


「アビィ・グリーン」


 助けた方の女だ。


「ジーン・コックス」


 二人とも二十歳ぐらい、いや、もっと若いか。体脂肪率がほぼ無い。引き締まった肉体のために大人びて見える。年齢が良く分からなかった。


「シーカーにはシーカーの仕事がある。俺たちには俺たちの仕事がある。互いにやり方も違っていれば、活かし方も違う。おまえたちは俺たちに出来ない仕事をやってほしい。それが俺の助けにもなる。俺のことは大丈夫だ。このおっさんらが俺を守ってくれている」


 よく考えれば、まじまじと顔を見るのは初めてだった。二人とも大きな瞳の美人で目を合わすとなんだか恥ずかしい。やっぱり俺はおっさんだった。


「と、いうことだ」


 勝ち誇ったように言うカリム・サンはなんだか嬉しそうだ。さぁ、行こ行こってな感じで歩き出した。


「では、また会おう」


 アビィもジーンも、それには答えなかった。顔色一つ変えずに、大きなまなこを俺に向けている。置いて行かれるとは思ってなかったのだろう。だが、仕方がなかった。


 別れの言葉を交わしてくれなかったのは残念だったが、縁があればまた会うことになるだろう。俺は先へ進んだ。二人は道に立ち止ったままだった。


  と、思いきや、二人は距離を置いてずっと後ろをついて来ていた。業を煮やしたカリム・サンが追い払いに行く。ハロルドが面白がっていた。


「シーカーの女はこうと決めれば決して折れません。殿下、とんでもないのに好かれましたな。あの感じだと城だろうが何だろうが忍び込んで来て、普通に殿下の寝室まで入って来ますぜ。諦めた方がいいですよ。かえって騒ぎになる。だが、悪いことばかりではない。この辺の女よりぁ、よっぽどいい。シーカーの女は男の喜ばせ方を本能的に知っている。しかも二人。こりゃぁ、大変だ」


 経験有りって面だな。思い出して鼻の下を伸ばしてやがる。こりゃぁ、変な誤解をされそうだ。が、分かっていて彼女らを危険にさらすことも出来まい。連れていく以外ないか。カリム・サンを呼び戻し、連れていく旨を言い渡した。


 カリム・サンがまた癇癪を起した。だが、慣れている。こいつは悪い男ではない。


「アビィもジーンも、この分だと竜王の門に忍び込んでくる。捕まったら死罪だ」


 カリム・サンも凱旋パレードの凄惨な現場を見たろう。仮にも仲間だった者たちである。一緒に死線を潜り抜けて来た。ハロルドも援護射撃してくれた。俺に言ったのと同じようなことを言う。ただ、夜這いの話だけは抜きであった。カリム・サンの性格上、それは許されない。


 弱いものが虐げられるのに怒り覚える。こいつはそういう男だ。カリム・サンは承諾するしかなかった。






 竜王の門では近衛兵に囲まれず、簡単に入れた。何人かには出くわしたが、俺だと知れると皆、すっ飛んで行った。上司に報告するのだろう。おそらくはその上司も酔って浮かれている。考えも働かせず、さらに上へと話を上げる。上の連中も酔っている。さらに話は上に行く。


 俺たちはお迎えを待たずして、ずんずん城内を進んでいった。やつらにとってタイミングが悪いっちゃぁ悪いんだが、俺たちにとっては好都合だ。雨男と風太郎、それにシーカーの女戦士も付いてきている。


 取り敢えず、全員が俺の部屋に入った。待てば誰かが来るであろう。おそらくは執政デューク・デルフォードあたりか。


 俺たちは静かに待った。俺は机に座り、雨男と風太郎はソファーに座らせ、他は突っ立っている。音楽の演奏が漏れ聞こえていた。大声でしゃべる男たちの声も聞こえる。案の定、デルフォードが赤い面して現れた。


 慌てて走って来たのか服装は乱れ、息も切れている。ドアは開けっぱなし、机にしがみつくと開口一番、御首尾は、と発した。


「うむ、上手く行ったよ」


 酔っていたのもあろう。そうでしたか、そうでしたか、と詳しい内容も聞かずにうなずいていた。彼にとって喜ばしい日となったはずだ。内乱になりかけていたのを抑え、国民にも支持され、しかも、政権の虎の子、魔法開放が近づいている。


「さっそく皆の前で報告しましょう」


「晩さん会でか?」


 デルフォードは、はっとした。俺は王都に帰還したばかりという設定になっている。


「あ、はあ」 自分から言い出しといて歯切れが悪い。「はい。その晩さん会で」


 そりゃぁそうだ。俺のいない間にこのバカ騒ぎ。それに出ろとこいつは言いう。


「ところで殿下、この晩さん会に至った経緯はご存じで」


 デルフォードはこの説明が先だと分かったようだ。バリー・レイズだろ。俺はうなずいた。ほっとしたのかデルフォードは、ふぅーっと胸を撫で下ろした。


 何を安心している。話はこれからではないか。


「デルフォード、忘れてはいまいか? 俺たちがシーカーに会いに行っているのは国民には内緒だったはずだぞ」


「あの時はそうでしたが、こうやって殿下も無事に帰って来られました。もう内緒にする必要はないでしょう。サプライズです。殿下が戴冠式に出席しなかったわけが国民に広く知れ渡るのです」


「それはそれは有り難い。で、シーカーはどうするんだ? ずっと昔から王族のみの秘密だったんだぞ」


「殿下がエトイナ山までのルートを確保した、でよろしいではありませんか。実際、そうなのですし、そもそもこのわたくしはエトイナ山行きの式典を大々的に催すつもりだったのです。国民も喜び、国威発揚する」


 魔法が使えるというのは魅力的だが、長城の西は命の危険を伴う恐ろしい土地でもある。誰も行きたがらないそこに行くのなら栄誉が与えられてしかるべき。デルフォードの魂胆は別として式典は一理ある。


「俺が晩さん会に出るのは構わないが、デルフォード」


「はい? まだなにか」


「何か忘れてないか」


「なにかとは?」


 さっきからこいつ、自分のことでいっぱいいっぱいのようだ。魔法開放の道筋が出来たと国民に示すことで己の地位は更に盤石となる。


「ここにも酒と飯を運ばせてくれないか」


 デルフォードは俺の部屋を見渡した。イーデンはもちろん、ハロルド、カリム・サンにフィル・ロギンズ。その顔らは見知っているはず。俺と一緒に王都を出た連中だ。他はどなたかなって顔をしている。


「そうそう、友人を紹介しなければな」 俺は机から立ち上がり、ソファーの後ろに立った。「こちらがコウ・ユーハン殿で、こちらはウマル・ライスマン殿。チアナとイスランの王族の方たちだ」






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