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09

 こいつには何かある。国軍の司令官にねじ込めるとしたら誰か。王太后エリノア・バージヴァルしか思い浮かばない。そういや、バリー・レイズのプレートアーマー。他と違うような気がする。近衛騎士団のプレートアーマーは真鍮製しんちゅうせいと聞いた。それで金色を出している。


 イーデンのはバリー・レイズと同じ黒色。鉄製で、くすんだ黒となっているが、バリー・レイズの黒には輝きがある。黒曜石の光沢に似ているようで、黒ガラスのようでもある。塗装して出した色のようには見えなかった。


 この世界に来てプレートアーマーはいくつも見たが、初めて見るような素材だった。あるいはもしかして、あれがヴァルファニル鋼。


 賢いドラゴンの弱点、ルーアーを破壊できる唯一のものとヤールングローヴィが言っていた。もし、本当に、あのプレートアーマーがヴァルファニル鋼だったとしたら、俺は何も分かっちゃぁいなかった。


 エリノアに底知れなさを感じた。ヴァルファニル鋼をエリノアの息がかかっている者が身に着けている。


 凱旋パレードは続いていた。近衛騎士団、国軍の将兵と続き、目下通過しているのは罪人たちである。首輪と手かせでつながれた反乱の首謀者らと暴徒3百人。立ち止まれば馬が飛んできて、容赦なく鞭を打たれる。


 女も子供も関係ない。鞭を討たれても動かない者はその場で切り捨てられた。王都の市民は口汚く罵り、汚物を浴びせかける。花びらで埋もれていた道が、今は見る影もない。汚物で足を取られる有様だった。






 通りが静かになって、女戦士とラース・グレンが姿を現した。ラース・グレンは杖を突いた長身の髭男だ。王都で在地のシーカーを率いている。


 クレシオンの戦いの後、単身で転がる岩の里へ向かった。現地では行き違いになっていたが、一足先に王都に舞い戻っていた。自分がいない間の王都で何が起こっていたか情報収集はしたろう。彼の仕事でもある。そのためにシーカー十二支族はエンドガーデン全土に人を送り込んでいる。


 ラース・グレンの少し後にカリム・サンとフィル・ロギンズも戻って来た。夜までは時間がある。


 アジトに入った時の俺はバリー・レイズを面白半分で見ていた。その時カリム・サンもフィル・ロギンズも俺の心境とどっこいどっこいだったろう。それがバリー・レイズを目の当たりにして全く面白くなさそうな表情をしていた。


 彼らの想像する英雄とは程遠かったようだ。捕虜の扱い方に不満があったようだ。捕虜は飲まず食わずで辺境の街からここまで連れて来たらしい。王都の地を踏めたのはそのうちの三百人ほどだった。どれだけの遺骸を野に捨てて来たのか想像に難くない。


 その想いは、ここに残っていたイーデンやハロルドも同じだった。終始、こわばった表情でカリム・サンらの話を聞いていた。


 やがて三人は報告を終えた。結果、総合するとこういうことになる。


 州軍の鎮圧失敗は竜王の門に大きな衝撃を与えた。民主政治が始まったばかりである。執政デューク・デルフォードは閣議を開き、善後策の検討に入る。そこで浮かび上がってきたのは他国の王族の陰であった。


 兵が消えたり、突然死んだりと兵に恐怖が蔓延し、統率できない状況にあったという。閣議はリーマン・バージヴァル、もしくは前々王アンドリューの弟の派遣を検討した。前々王アンドリューは八人兄弟の長男で、弟がまだ二人生きている。


 それに反対したのが王太后エリノアである。ユーアの王太子リーバー・ソーンダイクが竜王の門に滞在するものの、魔法を使える者は数少ない。辺境の街に割くには割が悪いと言うのだ。


 だったらリーバー・ソーンダイクに頼んで、ユーアに救援を求めるのか。いや、それは出来ない。それこそ国家の恥を世界に知らしめるというものだ。


 政治体制を一新したばかりなのだ。おそらくは、これが敵の狙いだったのだろう。竜王の門では俺の帰還が一縷いちるの望みとなっていた。


 とはいえ、辺境の街は予断を許さない状況になりつつあった。王を名乗るような輩が出て来たのだ。ブライアン王は魔法が使えない。使えない者が王になれるのであれば俺だって、とうそぶいたのである。


 竜王の門は慌てた。俺の帰還を待つ間、国軍は動かせない。そう言った事情も知らない自称王は州軍の惨敗となかなか動かない国軍を例にして政府や議会が役立たず、何もしようとしない愚か者たちだと、公然と批判した。


 このまま放置すると王を名乗る者があちこちから出て来てしまう。民主化の失敗どころではない。執政デルフォードは王太后のエリノアにリーマン・バージヴァルの派遣を泣きついた。


 ところが返って来た答えは、王太后自らが立つ。エリノアが軍を率いると言い出したのだ。王族が指揮官なら国軍の体裁は保てる。だが、肝心の魔法使いには勝てない。みすみす王太后を失うようなものである。


 反対するデルフォードに、ならば魔法使いに勝てさえすれば、王族でなくとも、国軍を率いてもいいのだな、とエリノアが言った。


 そして連れて来たのがバリー・レイズだった。


 とはいえ、バリー・レイズは幼さが残るあの容姿である。エリノアは思慮深く、賢いのは周知の事実だ。閣僚連中はエリノアの真意が掴めなかった。不可解過ぎて、どさくさに紛れて男妾に地位を与えようとしている、この国は終わった、と考えた者もいたらしい。


 だが、エリノアはとち狂ってはいなかった。閣僚連中はバリー・レイズの披露した技に息を飲んだ。魔法陣を出さずとも魔法のごとく消えて、別の場所に立っていたという。


 到底、人間業とは思えない。肉体の強さのみでそんな芸当をやってのけたのだ。これなら魔法に勝てるかもと誰もが思った。しかも、これまで離れ業をさんざんやってのけたエリノアの保証付きである。閣議でバリー・レイズの国軍司令官は了承された。


 後は街の噂通りである。バリー・レイズは一人でチアナとイスランの王族を倒した。残りは赤子の手をひねるようなものである。押し寄せた国軍にあっという間に飲み込まれていった。


 結局はバリー・レイズがどうやって魔法を打ち破ったのか分からなかった。ただ、強さの秘密は垣間見えたと思う。閣僚の前で披露したという人間離れした超スピード。そして、これは憶測だがバリー・レイズのプレートアーマーはヴァルファニル鋼。この二つは何らかの関係があるとみていい。






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