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08

 王都センターパレスは異様な熱気に包まれていた。市街地から竜王の門に通ずる大手道はまるでパレードを待つかのように大勢の人々が集まっている。


 俺たちを待っていたわけではない。旅の目的はもちろん、旅に出たこと自体も誰にも知られてはならなかった。そのために出立の日をブライアン王の戴冠式に当てた。


 ことを大きくせずに、静かに帰還するつもりだった。途中、草原の渡し場で、干し草を山に積んだ馬車を積み荷ごと買った。王都に近付けば近付くほど道の通行量が多くなる。俺たちは干し草に雨男と風太郎を隠して王都に入ろうとしたのだ。


 道中、誰にも怪しまれなかった。つけられていた気配もない。なのに王都についてみればこの騒ぎだ。竜王の門への大手道は多くの人々で塞がれていた。


 うかいしたとても結局は竜王の門で人々の目にさらされてしまう。祭りの時期でもなく、国王に何か起こった訳でもなさそうだ。人々は嬉々としている。


 郊外で行き交う人々を呼び止めて事情を聞いてみた。どうやらユーアとの国境近く、貿易の盛んな港で反乱が起こっていたらしい。州軍では解決できず、派遣された国軍がそれを鎮圧して帰還するという。


 指揮官はバリー・レイズという男だ。聞いたことが無い。名前からして王族でないことは確かだ。民主政治となり、埋もれた人材に日の目が当たるようになったのだろう。以前の国軍なら指揮するのは王族か、それに近い貴族だった。


 そういったことで王都の市民は自分たちの身内から生まれた英雄に熱狂していた。だが、耳を疑う噂もあった。バリー・レイズは一人でチアナとイスランの王族を倒したという。


 国境の港での反乱は当初、数十人規模であった。王政復活を高らかにうたい、代官の屋敷を襲撃し、立て籠もった。


 裕福で知られる街であった。浮浪者や食い詰め、職にあぶれた傭兵らがぞくぞくと街に流入し、街の破壊、強盗、殺人が相次ぎ、そこに元々いたギャングの抗争もあいまって、治安は急速に悪化していった。すぐに州軍も動いたが、敗走するのである。


 俺たちは夜までシーカーのアジトに身を寄せることにした。シーカーの女戦士の案内で、大手道を見下ろせる建物の二階に入った。シーカーは王都に幾つものアジトを持っていてそこを絶えず移動している。


 もちろん、雨男と風太郎も一緒だ。裏道から人に見られないようにここに連れて来きた。


 女戦士の一人が服装を着替えると、仲間に帰還を知らせたいと出ていってしまった。大手道のアジトにはシーカーが誰一人いなかった。俺たちは噂のバリー・レイズを見てやろうと女戦士らにそれが出来る場所に案内させた。女戦士は仲間がいる別のアジトに向かうのである。


 女が出ていくとフィル・ロギンズも街に出たいと言い出した。情報を得るために知人に会うと言うのだ。フィルは今や魔法博士だ。普通の人間が魔法使いに太刀打ち出来るのかと疑問を持ったようだ。


 カリム・サンも同様であった。クレシオンでは魔法に痛い目を見た。バリー・レイズなる平民がどうやって魔法に打ち勝ったのかに興味を持ったようだ。俺は議会にもコネがあると言った。元は議会のスパイだからそれなりの情報は手に入れて帰って来るはずだ。


 時間はたっぷりとあった。俺たちは咎人でも何でもない。追われていて、身を隠しているわけではない。ただ、タイミングがなぁ、とは思う。こうなるとかえってバリー・レイズなる人物の栄誉に水を差したくないとも思えた。俺たちもチアナとイスランの王族を倒した。王都は平民から生まれた英雄バリー・レイズに熱狂している。


 良く言えば順番待ちだな。俺としてもバリー・レイズなる人物に興味がないわけでもない。魔法無しで魔法に対抗できるのが本当なら大歓迎。戦術の幅も広がるってもんだ。カリム・サンとフィル・ロギンズに、街に出ることを許してやった。


 だが、すぐには帰って来られまい。バリー・レイズの雄姿を見逃すことになる。ここは特等席だぞ、それでも行くかと問いただす。沿道で見ますから大丈夫、と二人はそう言って出ていってしまった。


 やることのない俺たちは、おのおの思い思いの場所に腰を落ち着かせた。部屋に物音一つ立たなかった。残った者たちはバリー・レイズが来るのを静かに待っていた。


 国軍が到着した、国軍が到着した、と叫ぶ若者たちの声が窓の外から聞こえた。人々のザワつく声が聞こえる。見下ろすと沿道の人々がソワソワしている。国軍が王都に入ったようだ。まるで自分たちが国軍の一員かのように、若者たちは叫びながら大手道を竜王の門へ向かって走って行った。


 若者が走り去る反対の方向に目をやった。イーデンもハロルドも、女戦士の一人も窓から顔を出していた。二階だからそこそこ見晴らしはいい。どの窓の住民も街並みの向こうに視線を向けている。


 やがて道の向こうに国軍が姿を現した。先頭を進むのは黒いプレートアーマーの男である。そして、その後ろには金色の近衛騎士団が続く。遠くからでも分かる。赤や黄色の花びらが先頭を行く男に降り注いでいた。


 俺みたく名ばかりと違い、まさしく英雄であった。女、子供が騒ぎ立て、男は羨望の眼差しでバリー・レイズを見ていた。


 行進は近付いて来る。バリー・レイズの両脇では騎士が長槍を立てていた。どちらもその先には首がある。噂がホントならチアナとイスランの王族であろう。


 バリー・レイズは灰色の髪の男だった。中肉中背。そんなに体格には恵まれていない。市民の声に答えるでもなく、真っすぐ前だけを向いていた。


 冷たい目の男だ。市民には目もくれない。建物のどの窓からも花びらが降り注がれている。隣の窓の女性なぞは花びらを何度も何度も投げかけながら絶叫していた。


 バリー・レイズは花びら舞う中、俺たちの窓の下を通過して行こうとしていた。長い髪が後ろで束ねられていた。歳はキースと同じぐらいか、それより下か。筋骨隆々の雄々しい男を想像していたが、まだ幼さが顔に残っている。


 槍に掲げられた首が俺の目の高さにあった。中年の黒髪の男だった。王族であるという。血が髪にこびりついてガビガビになっていた。


 逆らった者のあるべき姿ということか。バリー・レイズに子供の面影が残っているだけに無邪気さゆえの残酷さを感じてしまう。どういういきさつでこのバリー・レイズが国軍の司令官になったのか。


 国防省や近衛騎士団には優秀な人材が数多くいる。年端のいかぬガキの出る幕はないはずだ。しかし、この異例の人事が図に当たった。これが単なる偶然だとは思えない。







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