05
『ヤドリギを守らないといけないように、ドラゴンは自分のルーアーも守らないといけない。どちらも失ったら、はぐれドラゴンになる。ヤドリギから離れる時間を長くしてもいけない。ルーアーが失われていくから』
『そのルーアーとやらがどこにあるのか、外見から知ることは出来ないのか。目印とか』
『ロード・オブ・ザ・ロードで俺の火球を消した盾があったろ。あの盾に青い石が付けてあったのを覚えているか。あれは魔法の威力を下げる効果がある。あの時の俺の魔法は貧弱だったんで消えてしまったが、魔法防御を一段階、二段階、三段階と、ものによって下げ幅は違うけど、あの石でルーアーを守っているやつもいる』
ジュールはいつになく真剣だ。セプトンとの戦いで何もできなかったのを重く受け止めているようだ。俺がヤールングローヴィに、よくも堂々とラキラのそばにいられるな、と罵られたのを他人事ではないように思っている。
『それならまだましさ。石はルーアーの場所を相手に知らせている目印ようでもあるし、魔法を警戒しているだけの馬鹿ともいえる。それに石は魔法を無効化するわけじゃぁない。効果を落とすだけのもので自分より強者にはものの役に立たない。やっかいなのはルーアーを自在に動かすやつさ。それともただ単純に、魔法耐性や強度のある骨や皮で守っているやつ。場所を巧妙に隠していて、魔法攻撃には己の魔法で対処する。賢いやつほど魔法に自信がある』
『なら、サメのやつ、セプトンとか言った。やつに石はついてなかった。どちらのタイプなんだ。それとドラゴンニュート。あのクソガキはドラゴンの姿より倒しにくいと言ったが』
『どこにルーアーがあるか、やっぱり外見ではわからない。そのうえ竜人化すれば力が圧縮されるんだ。ルーアーの守りはドラゴンの時より強化されるって寸法さ』
『それでも、ラキラの先祖はドラゴンニュートを倒した』
『ヤドリギを燃やして、粘り強く長時間戦ったんだろうな。そうしたら倒せないわけではない。戦えば戦うほど力を失っていく』
ガス欠か。狩るのならまだしも、ラキラを守るという俺たちの戦いにそれは向いていない。ルーアーがどこにあるか瞬時に分かるようでないと。
『ところでキース。おまえの魔法。あれはいったい何なんだ』
さて、どうしたものか。ヤールングローヴィの言う通り、賢いドラゴンならば気にならない方がおかしい。こいつには教えてやるか。いや、ダメだ。よそう。やはりリスクがデカすぎる。
『ジュール。おまえはいつもラキラに張り付いている。俺の魔法には不向きだ。転がる岩の主が言っていたろ。あの魔法は全世界の強者に俺はここにいるって知らせるようなもんだ。賢いドラゴンの中でラキラの力を欲するものが今後出てこないとも限らない。ラキラとずっと一緒にいたいなら、知らない方がいい』
夜が明けようとしていた。高峰竜王の角を中心にヘルナデス山脈の山影が広がる。
気になることがあった。イーデン・アンダーソンのことだ。精神を同期させる生活魔法を、アトゥラトゥルはイーデンに施してあった。
アトゥラトゥルに急ぐ様子もない。今夜はイーデンらに何も起きなかったようだ。ヘルナデス山脈の山際は赤く燃えていた。空にはまだ、赤みがかったまん丸い月がある。
ヤールングローヴィは言っていた。アンデットはルーアーだけで動いていると。ジュールによればルーアーとは魔核とも言うらしい。ドラゴンがヤドリギを持ったら発現するとも言った。おそらくは魔法のエネルギーが世界樹から魔核に送られている。
だとしたら、死なないという魔力をアンデットはどこから供給するのか。何もないところからルーアーは現れない。あるのは自身の中にのみ。生命力か、意志か、それとも魂か。
リーマン・バージヴァルは自爆魔法を自身に施している。その事実と効果を、自身を守るために隠そうともせず、わざと公にしている。
生命力と爆発力は比例する。それでいうのなら、老化で死ぬ間際では小さな爆発。現時点でやつが殺されたとすれば、転んでもただで起きないやつのことだ、竜王の門を吹っ飛ばしかねない。
想像するに、アンデット化する魔法もそれに似たようなものではないか。自身の中の何か、生命力か、意志か、魂をルーアーに変換する。
俺はイーデンと約束した。アンデット化したら解いてやると。竜王の加護持ちの俺が触れれば魔法は無効になる。
ことはそう簡単には行かないようだ。魔法を解く解かないは別として、もしルーアーを破壊すればどうなるか。もちろん、アンデット化は解ける。だが、魂が解放されることはない。ルーアーは変換されたといえども元は生命力か、意志か、魂だ。
イーデンのような人間は、死して魂となれば妻のソフィアと娘のアリスにいつでも会えると思いがちだ。いや、それこそが彼の意志、今の自分を動かす力なのかもしれない。俺にアンデット化を解いてほしいと願ったのもその現れだ。自分の魂を亡ぼされるというのなら俺についてくる必要はもうない。
やつのことだ。アーロン王との仲違いでとち狂っていた時ならまだしも、今のやつなら俺や妻子に迷惑はかけられないとどこか火山でも見つけ、マグマの中に身を投じるのだろう。
俺はエトイナ山のカルデラ湖に降りる際、竜人化したジンシェンに触れた。竜王のヤドリギに登る際にも。
そして、セプトン。やつには腹にでっかい穴をあけてやった。いずれにしても竜人化は解除されなかった。
その事実から竜王の加護は発動中の魔法のみ有効だと推測できる。一旦鳴りを潜めた魔法には効果がない。リーマンの自爆魔法でいうと、解除は出来ないが、爆発の中では、俺は涼しい顔でいられるってことだ。
それに元々ルーアー持ちであるドラゴンの竜人化でさえ解除できないでいたのだ。なのに、ルーアーを魂か、意志か何かに戻さなくてはならないアンデット化を解除なんて出来ようか。
そういう理屈なんだ。イーデン・アンダーソンは一旦アンデット化すれば、ルーアーを破壊する以外に止めるすべはない。
もし魔法が発動中でイーデンがアンデット化の最中だったら、竜王の加護で魔法を無効化出来るかもしれない。そう言う意味でいうならイーデン・アンダーソンとの約束は間違っていない。だが、微妙だ。魔法が魂ごと消えてしまうって可能性もあるし、今回の件でもそうだが、状況がそうそうイーデンと一緒にいることを許してくれまい。
救いなのは竜人化と違い、アンデット化は発動までに時間があるということ。鳴りを潜め、条件が整えば発動する魔法を事前に解く。方法があるはずだ。あの魔法の書。
ドラゴンでさえ知らない魔法が記載されている。フィル・ロギンズは寸分たがわず複写すると言っていた。
写しはもう終わっているのだろうか。あるいは、魔法の書をまだ持っているのかもしれない。王太后エリノア・バージヴァルからの返還命令をまだ受けていない。
一度、真剣に目を通す必要がある。真偽確かではない出所を俺は明らかにしなくてはならないのだ。
眼下に広がる草原に灰色の街クレシオンがあった。目指すガーディアンはクレシオンのランドマーク、地上百二十メートルの塔である。瓦礫を積み上げたような街並みに一つだけ勇壮を誇っていた。
ひどい夜であった。ここへ来て疲れがどっと押し寄せてきた。地平線のずっと向こうに太陽が姿を現す。高峰竜王の角は、朝焼けに赤く染まっていた。
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