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04

 ヤールングローヴィはほぼ百八十度回転して大岩壁の方を向いた。白い魔法陣をアトゥラトゥルに放つ。


 魔法陣の光に覆われたアトゥラトゥルは、ラキラが見守る中、ゆっくりと体を起こした。覆いかぶさる瓦礫がガラガラと崩れ始める。


 まだ翼は砂塵まみれだったが、アトゥラトゥルは長い首を伸ばすと大きく曲げてラキラに向かった。ラキラはアトゥラトゥルの大きな頭を抱きしめた。


 ラキラとアトゥラトゥルの、その様子に安心したのかヤールングローヴィは宙を滑るようにして俺の前までやって来た。


 体を回転させる。大岩壁向いていた両目が丸いフォルムに添って回ってきて俺の正面で止まった。閉じられていた赤道がまた開かれた。凶暴な顎が見えた。


『いきなり世界を覆うほどの魔方陣が展開されたと思ったら君か!何をした!』


 昆虫のような目から怒りの色は読み取れない。だが、口調は完全に怒っている。


『ローラムのはしから端はもちろん、ザザム、ガリオン、果てはムーラン、リオームまで君の魔法陣が届いたはず。魔方陣の大きさから言って、強力な魔法が行使されたのは紛れもない。名のあるドラゴンなら誰もが気付いたはずだ』


 やっぱりだ。何が起こったかヤールングローヴィでさえ全く把握出来ていない。凍れる世界はドラゴンの間では使われたことがないんだ。


『賢ければ賢いほど、何をどうされたのか分からないってのは恐ろしい。確かめたいはずだ。僕もどんな魔法か君に聞きたいところだけど時間がない。すぐでもここを立ち去れ。ラキラに危険が及ぶ。僕みたいに好奇心にかられてやってくるやつがいるとも限らない。僕で対処できればいいが、残念ながら上には上がいる。さぁ、早く!』


 それでか。ヤールングローヴィは俺たちがここにいることを知らなかった。だから、ジャンプを使わなかった。そして、問答無用にカンバーバッチらを帰したのも、ラキラらに言葉を掛けず回復魔法をかけたのもそのため。だがどうしても一つ、聞きたいことがある。


『魔法のドラゴンはどうやって倒す。 頭を半分失ってもやつら、ピンピンしてやがる』


 赤道が閉じられた。宙に浮いていたヤールングローヴィがストンと落ちる。物凄い衝撃音がしたかと思うとヤールングローヴィはコマのように回った。


 回転の速度が上がっていく。それにつれてヤールングローヴィも浮かび上がる。それが、ピタっと動きを止めた。昆虫のような目が俺の前には有った。


 もしかしてキレているのか、こいつ。赤道が割れた。


『そんなことを知らないで君は、よくも堂々とラキラのそばにいられたもんだな!』


 マジでか。うかつだった。落ちたところにクレーターが出来ている。浮力を失ったからではなく自らの意思で地面に激突した。


 やはりまずかったか。自分は我慢しているのにもかかわらず、面倒を起こした人間がなんの悪びれる様子もなく己の好奇心を満たそうとしている。そう思うわな、こいつの場合。


 言った言葉を引っ込める訳にもいかないし、さて、どうしたものか。


『しかたない。時間がないから手短に言う』 


 答えた。怒ってなかったのか。いや、さっきのドンって落ちたやつ、あれは怒りを抑えるためにやったんだ。ビビったぜ。危ない、危ない。


『賢いドラゴンとはぐれドラゴンの違いはルーアーの有るか無しか。アンデットはルーアーだけで動いている。ルーアーは通常の武器では壊せない。ヴァルファニル鋼。あるいは君だ。竜王の加護。これで満足したろ! 早く行け!』


 ルーアー。ヴァルファニル鋼。そして、竜王の加護。


『すまない! 恩にきる!』


 俺はラキラの元に走った。ラキラもこっちに向かって来ている。ヤールングローヴィにお礼を言いたいのだろう。だが俺は、すれ違いざまにラキラの胴を抱き上げた。そして、肩にかつぐ。


 下ろして、と言うラキラを無視して走る。アトゥラトゥルの前に立つとその長い首にラキラを乗せた。


『アトゥラトゥル! 飛べるか? ここにいては危ないらしい!』


「ごめんなさい」 ラキラがアトゥラトゥルの首を抱いた。「もう少し力を貸して」


 ラキラは俺の肩にかつがれている間にヤールングローヴィの言葉を聞いたようだ。彼らは声を発しなくても心の声でコミュニケーション取れるらしい。俺もラキラの後ろに飛び乗った。


 アトゥラトゥルは俺たちを乗せたまま、蛇が鎌首をもたげるように長い首を上げた。俺たちはどんどん地上から離れていく。ばらばらと瓦礫や埃が落ちていく。


 百メートルほどある翼が広げられたかと思うとアトゥラトゥルは二度三度、地面を蹴った。さすがは里の主の回復魔法である。アトゥラトゥルは完治している。


 ハングライダーが飛び立つ時のようにアトゥラトゥルの体が宙に浮いた。ジュールが慌てて走ってきて、地面を滑るアトゥラトゥルの長い尻尾に飛びつく。


 アトゥラトゥルが羽ばたいた。地表にいるヤールングローヴィはあっという間に米粒ほどである。


「ごめんなさい。主様」


 俺はラキラの背中を抱くように座っていた。風を切る中でも、振り返り地表を見るラキラの声がよく聞き取れた。ヤールングローヴィはラキラの安全が確保されるまであの場に留まるつもりのようだ。俺はドラゴンのことを知らなすぎる。


 ルーアーとは。そして、ヴァルファニル鋼。魔法についてもだ。よく知ればもっと上手くやれたはずだ。ヤールングローヴィの言う通り、これではラキラを守れない。


 ジュールが俺の背を登っていく。アトゥラトゥルの尻尾からやっとここまで来たんだ。俺とラキラの狭い間に無理やり体をねじ込んでいく。


 ラキラとは少しの時間ではあるが、引き離されていた。もう離さないって言わんばかりにジュールはラキラの背に張り付いた。


『ルーアーは魔核ともいうんだ』


 ジュールがドラゴン語を発した。俺とヤールングローヴィの会話を聞いていたのだ。ドラゴン語は魔法陣を見ることで意思疎通を行う。正確には、ジュールは俺たちの会話を見ていた。


『ヤドリギを持つとルーアーが体の中に現れる。どこに現れるかは固体によって色々さ』 


 ドラゴン語なら風切り音の中でも容易に意思疎通出来る。







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